逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
慶と弔
 風の強い日だった。
 辺りの木が右へ左へとなびいている。

 路地を女が歩いていた。
 大ぶりのストールを被っていてそれが風に煽られている。何度か抑え込もうとした、しかし思うようにならない。
 明らかにじゃまだろうに仕舞う様子もない。目深に被りなおすと、また歩きはじめた。
 まるで風に翻弄されているように見えた。

 女は掘立小屋のような所に入って行く。
 ムシロを吊り下げただけの入口だ。

 それを押し開くと男が待っていた。黒い口髭の、ラプターだった。

「おい、持って来たのか」
「これで最後よ、これ以上なにもできないわ」

 女は侍女のエレナだ。
 ぶら下げた袋から出てきたのは銀の燭台。

「ふん、これか。売れば幾らかにはなるだろうがな」
「お願い。もう私にまとわりつかないで。屋敷の人が何かを感づいているみたいなのよ」







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