逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
輝く光り、そして影
「し、執事殿!」
 リズが息せき切って庶務室に入って来た。

「どうしたのですか、あなたらしくもない。落ち着いてください」
「これが落ち着いていられましょうか。決まったのです、アーロン様がソフィー様をお迎えになると、ご結婚なさると、たった今」
「・・っ、なんとなんと! ついにその日が来ましたか」
 らしくもなく躍り上がっている。

「執事殿、こうしちゃいられません。アーロン様はなるだけ早く式を挙げたいとおっしゃっています」
「おお、おお、確かにこうしちゃいられない。まずは何から手を付けるべきか。日取りを決めて招待客を選んで。ああ、そうだ司祭様にも連絡をしなくては。神殿の日程もいつがいいのか相談すべきだな」

「はい。それで私は当日の宴席料理を料理長と相談しなければ。それから遠方のお客様はこの邸にお泊りになりますね? 客用の屋敷の掃除と寝具の準備と・・。ああ、それから肝心なソフィー様の準備です」

「ソフィー様の?」
「そうです、一番の主役です、花嫁様のご準備です」
「ああ、そうですそれそれ!」
「ドレスは、ベアトリス様のを譲り受けられるのだそうです。素敵なお話ですね」

 自分の案を褒めてから、
「サイズはどうでしょうか、試着していただかなければ。それからアーロン様のご衣裳ですが、軍の最高司令官でいらっしゃいますから、やはり軍服でしょうか」

「そうでしょうな。それから最高級の礼服もお似合いになられましょう、あのご容姿ですからね。式典は長いはずだ、途中でお召し替えされてもいいかと思いますよ」

「ああそうですね。どんなに素敵なお姿でしょう。きっと私たちの目がつぶれてしまいますね」
「一世一代の晴れの日です、万が一にも抜かりがないよう準備しなくては」
「はいっ、頑張りましょう、執事どの」

 思わず気合が入る。二人はまるで戦場に行くように肩を怒らせた。

 この日から、ハインツ家は上を下への大騒動になった。


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