逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 そうか、と言ってシュテルツは手元の書類を見せた。
「これはケイネ隊の派遣費用の明細書だ、国境へのな」
「・・あれか」
 アーロンは苦笑した。
「まあ、グリンドラ王も考え無しのことを言ったものだ」

 ひと月前、建国記念を祝う酒の席があった。

 この国の王、グリンドラはケイネ伯に言ったものだ。
『お前、バッハスとの国境に行ってみないか。国境警備の応援としてだ』

 酔った勢いでの言葉だった。
 ケイネ伯はぎょっとして、
『そ、それは、あのラクレス公が着任しているのではありませんか? だとしたら私などは・・』

『まあ、そうなんだがな。しかし数日前にバッハスが越境して紛争が起こっている。いつまた襲撃があるかもしれんからな。ラクレス隊だけでは手薄だろう?』
『・・は、はあ』

『そうだお前の息子の、ギースとか言ったな、そのギースと現地の応援に行って来い、しばらくの間だ』
『・・・・』

 ケイネは色を失った。

 彼は世襲の爵位に胡坐をかいて日和見に暮らしているだけの男だった。
 しかし記念式典での王の発言だ、大勢の臣下が成り行きを見ている。形だけでも出兵せざるを得なくなった。

「まあ、あれもずる賢い奴だからな、それでいて小心者だ」
 アーロンが苦く笑う。
「ああ。だからこそ今まで大きな問題も起こさずやって来た、それだけの器だ」
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