逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
伝書鳩
 迷路のような洞窟を、足音を忍ばせて歩く。
 暗がりの中を壁伝いに進んでいくと、向こうに光が漏れている所が見えた。

「ああ、朝になっていたのだな」
 ヴェンがほっとしたようにつぶやいた。

 洞窟の中は時間がわからない。光を見つけて吸い寄せられるように近づいて行く。
 出口らしきところに蔦が垂れていた。侵入口を蔦がカムフラージュした格好だった。

 そこを抜けると一気に外光にさらされた。

 目の前に湖が広がっている。朝日を受けてキラキラと輝いていた。
「へぇ、こんなところに湖があるのか」
 見渡す限りの大きな湖だった。

 昨夜ソフィーを追って来たのは岩だらけの場所だった。するとここは洞窟の裏側だろうか。
 周囲に誰もいないのを確かめて辺りを探ってみる。

 湖のまわりは木立が並び、その背後には岩山が迫っている。
 しばらく歩くと見覚えのある岩石があった。
 あのかろうじて入れる岩肌も見つけた。
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