逆境に咲いた花は、可憐に匂いたつ
 ソフィーは部外者のヴェンに洞窟の存在を知られまいとしたのだ。だからまず入口がわからないだろう岩場から入って行ったのだ。

 夕べ、彼女は山道から逸れて草場を歩いてみたり、姿を消したかと思えば足元から急に顔を出してみたり。
 ラクレスの令嬢らしからぬ行動に笑いが滲む。

 ヴェンはその入り口から少し離れた灌木の前に立った。
 枝葉の中に手を入れる、そして小さな鳥籠を取り出した。この山に登るときソフィーに隠れて荷物に入れていたものだ。

 中には伝書鳩がいた。
「ひと晩ごめんな、寂しくなかったか」
 鳩は返事をするように小声でクククと鳴く。

 その足に小さな紙を結び付けると、
「がんばって届けてくれよ」
 大空へ放した。

 アーロン邸に帰るようしつけられた鳩だった。
 あっという間に山の向こうへ飛んでいく。
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