石ころ令嬢は愛を知って光り輝く【1話だけ部門】

第一話

「ローザの婚約が決まった。
相手は伯爵家の嫡男ジョセフ・クリード様だ」

父のその言葉に、わっと歓喜の声が上がる。

「すごいわ!侯爵家から縁談がくるなんて」

母は顔を綻ばせ、興奮したように言う。

「嬉しい。
私もあの方のことを素敵だと思っていたの」

妹のローザは頬を桃色に染めながら嬉しそうに微笑む。

「“コレクター”として、ローザの“ジュエル”を気に入って下さったそうだ」

父の言葉に、ますます嬉しそうに笑うローザ。
額の色濃いピンクのルビーが、一層の美しさを誇るように輝いていた。

「さすがローザね。あなたは私の自慢だわ。
それに比べて……」

母の視線が、ちらりと私に向けられる。
その目からは、先ほどまでの優しさも愛も消え失せていた。

「ねえ、たまにはお姉さまのジュエルも見せてよ」

ローザはそう言って、俯く私を覗き込む。
まるで面白い玩具を見つけたように、その口元は吊り上がっていた。

「……でも……」

その目から逃れたくて、私は更に俯いた。
額を隠すように伸ばした前髪は、私の唯一の防衛手段だ。

「ああもう、私が見せろって言ったら見せなさいよ!」

素直に従わなかったことに苛つきを見せたローザが、乱暴に私の前髪を掴む。
そのまま持ち上げられたことで、私の額があらわになった。

「あっははは!
いつ見ても汚い石ころみたい!」

そこにあるジュエルを見て、ローザが声をあげて笑う。

「これじゃお姉さまを欲しがるコレクターなんて現れっこないわね」

ローザの言葉に、母が頷いた。

「その通りね。
どうしてこんなに姉妹で違うのかしら」

深々と吐かれた母のため息と蔑みの視線が、棘のように突き刺さった。

「こんな出来損ないのジュエルを産んでしまったなんて、恥ずかしくてしょうがないわ」

「……ごめんなさい、お母様……」

わたしはただ、俯いて涙をこらえることしかできない。

「クレール」

父に名を呼ばれて、顔を上げる。
父が私を見る目も、とても冷たいものだった。

「お前がいると場の空気が悪くなる。
もう下がっていろ」

「……はい」

この家に、私の味方はいない。
だって私は、みんなにとって価値のない―――石ころのような存在だから。


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