理央くん!大好き!かなさん!好き好き!

決意

ピーピーピーピー


「心停止。」



ちょっと待てよ。理央。


まだだろ?



だって、なんで、は?





待ってくれ、行かないでくれ。



親友だろ?




長い間敬語だったけど、それは、


理央が思い出さないようにするためだ。


理央はすぐに泣くから、俺がしっかりしなきゃと思ったんだ。




理央は俺が敬語に変えた日、絶望した顔してたけど、だけど理央は立ち直ってくれた。



俺だって好きでやってるわけじゃなかったんだよ。




理央が少しでも強くいられるならって。




秋が来て、元気になって敬語も外そうかと思ったけど、照れくさくて外せなかった。



今更だったんだよ。





敬語、戻せなくてごめんな。



理央、あの日、理央の母さんが亡くなった日、ずっと叩き続けて、でも起きなくて、大泣きして。



分かるよ。



ずっと一緒にいたんだもんな。




悲しくてたまらないよな。




理央、敬語なんかやめとけばよかったな。




理央、天国からでも聞こえてるか?



今、お前が愛した女がお前のために泣いてくれてるぞ。



理央のことで涙を流す秋を見て俺は好きになったんだ。



俺はそういうことはできないから。



誰かのために泣くことがどうしてもできなくて、自分まで泣いてしまいそうで、それが怖くて。



だけど秋は躊躇いがないんだ。人のために願い、悲しむことができる人間だ。


でもその人のためにならない涙は必死に隠して、強いのかと思ったら意外に泣き虫で。




なあ、理央、そう言うところが好きなんだろ?




俺たち、親友だけど、ずっと一緒にいて、家族だから、だから分かるんだよ。



同じ女を好きになるとか、ほんとまいるよな。



なあ、多分ずっと抑えてたんだろ?




俺がずっと秋が好きなのを知ってて、告白することもなく、少し話してても黙って見てたもんな。



気づいてたからだったんだろ?



秋が幸せになる選択を、お前は選んだんだろ?




だからさ、理央。



俺は秋と付き合うよ。



俺ならいいってわかってくれたんだろ?




最後に悔しくもありながら俺に譲ってくれたんだろ?




俺は、別にお前とあきが付き合ったってよかったんだ。



今まで通り送り迎えと家のことを少し手伝う、そんな感じで良かったんだよ。



結局さ、なにが言いたいかって言うとさ、



俺はお前たちが幸せならそれでよかった。








2人が、世界一幸せになるのを見たかった。








「どうぞ。」


ハンカチを差し出された。



榊先生だった。



「先生、秋のこと、どう思いますか?」



「俺?聞いてどうする。」



「見たところライバルじゃないかなーと思って。」



「そりゃ好きだよ?

あっ内緒な?



でも安心しろよ。


お前に譲る。俺はそこまで残酷な人間じゃない。」



「別に残酷じゃないと思うけど?」



「あれ?敬語はやめた?」


「はい、俺の役目は終えたんで。俺からは俺の番ですよ。」



「そっか。」




秋、泣いてんな。


涙の水たまりできそう。



「俺、なんとなく、もうお別れの準備できてたんですよ。


家族だから。


いつ死ぬかもっていう予想はついてた。


それに、理央が入院するって聞いた時、ああ、そうなんだって思った。」



「なんで?」



「頑なに入院しようとしなかったからですよ。今まで。


理央はやっぱり愛が重いんで。


秋が朝起こさなくてもいいなんてこと、絶対に許さなかったと思う。」



「なるほど。一発で納得できるね。


……秋ちゃんはさ、強いように見えて、弱くて、でもやっぱり強い。


傷、見たことある?」



「傷?」



「俺、だいぶ前に秋ちゃんの診察をしたんだけど、

腕とかの傷は新しくて、学校でってことかって、納得できたんだけど、結構古い傷があったりするんだよ。


刃物で切った後みたいな。」



「それって、」




「そう、親からだろうと思う。傷口から見て自分で切ったとは思えない傷口だった。

で、心臓の音を聞く時に、お腹や背中にも同じ跡がたくさんあった。


それ以来はもう制服の上からだよ。聴診器は。

最初から見せたくないって感じだったから、まあ普通に思春期の女子だなって感じだったんだけど、秋ちゃんは傷のせいで見せたくなかったんだ。」



「……秋って、今日思い出したって感じでしたよね。母親のこと。自殺のことも。自分が殺されそうだってわかったのも。」


「見たところそうだろうね。秋ちゃんはさ、記憶を自ら切り離した。そう簡単にできることじゃない。

辛すぎて、その過去を無くしたくて、だから記憶がなかった。


……そこだけ聞くと、そうなんだって感じだけど、秋ちゃんは自分を守る力が強いってことでもある。


やっぱりかなわない。


あんな過去を思い出して、笑えるとか。」




「そうですね、ていうか、榊先生ってすごいんですね。全く泣いてない。」



「そりゃ俺だって泣きたいさ、あいつみたいに。」


「プライドが邪魔してんの?」



「人が死んでプライドとか関係ないだろ。」



「じゃあなに?」


「理央は頑張ったんだよ。最後まで。あいつが弱音吐くとこなんて今日初めて見た。


辛すぎて言っちゃうくらい頑張ったんだよ。


泣いてられるか。」




「あいつ見たらそうも言えんでしょ。」


「まあな。でも、秋ちゃんの涙で充分思いは伝わってるよ。」


「そうですね。」






理央が死んだその日は、すっごい天気が良くて、理央の母さん、あみさんが死んだ日とおんなじような感じだった。




あいつは会えたと思う。



宇宙の果てまで探しまくって、会えたと思う。






あいつは世界一可愛い俺の弟で、


世界一のマザコンだから。































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