理央くん!大好き!かなさん!好き好き!

頑張ったよ。

「秋、なんで泣いてるの?


なんの夢見てる?悲しい夢?」




秋、寝ながら泣いてるとこなんて、俺初めて見たよ。




「おか……さ、な、で、」



「……秋?」



お母さん、な、んで?



お母さんの夢を見てる?



秋、ダメだ。そんなの、見ちゃダメだ。


「秋!」


ごめん、起こしちゃダメなのかもしれないけど、これ以上みちゃいけない。


「り、おくん?」


秋の目が開いていく。


「そうだよ。秋、ごめんな……」



ごめんしか言えないんだよ。


ごめんな。



「理央くん、私、お母さん、なんで、え?」



秋、まさか、思い出した?


ダメだ。







思い出しちゃ、ダメだ。







「秋!!」






「理央くん、おっきな声出して、どうしたの?」



ごめん、こんな無理矢理なやり方しかないけど、もう夢のことは考えないでくれ。




「理央くん、私、思い出した。」



「……なにを?」



「私、この傷、なんであるんだろうって、ずっと思ってて、だってこの傷だけ覚えてないんだもん。」


秋が右手の手首を触りながら言う。




やめてくれ、もう






「理央くん、私、お母さんになんで生まれてきたの?って言われた。」



……もう、



「それで、そのまま前が真っ暗になって、それで考えてたの。私が生まれてきた意味。

………



私、幸せになるために生まれてきた!」







「やっぱり何度考えてもね、昔の私、幸せそうじゃなかった。


でも、やっぱり理央くんに助けてもらってから幸せ!」




………なにそれ、そんな、母親のこと思い出したんなら、泣くと思ったのに、何満面の笑みで笑ってんだよ。



ほんと、笑えてくる。




「ちょっ、理央くん?!なんで泣いてるの?」




あれ、俺泣いてんの?


これ、絶対嬉し泣きだ。




「秋、ごめんな、嘘ついた。」




「へ?なにが?」



「俺な、残り少しもない。ていうか明日があるかもわからん。泣くなよ。でも、俺、今楽しいし、多分明日生きてても楽しい。

今までも楽しかった。


だから、やっぱり、人生は量より質だよ。

秋と会えたからもう質は100になってる。量だってもう充分すぎるんだよ。


俺やっぱりめんどくさいこと嫌いなみたい。


もう幸せだからいいやって思う。


俺は今死んだって生きててよかったって思うし……って、なんで泣いてる??」



「だってぇ、私がいるから100とか!嬉しすぎるんだもん!」



「泣いてるのか笑ってんのかどっちなんだよ。」



「どっぢもー!」



「そこまで元気があるなら大丈夫そうだね。秋ちゃん。」



「榊くん!私決めた!理央くんと残り笑って過ごす!」


「そんな泣きながら言われても説得力ないよ……」


なるほど、榊先生の言うとおりだ。


ボロボロ涙が溢れている。



「お前なぁ、泣きすぎ。」


「ごめん!今泣き止んでる!!!」



「はいはい。もう存分に泣いてよ。……榊先生、こいつも今日ここに泊まらせていい?」


「……いいよ。」

少しためらいがあったのがなぜなのか、俺は知っている。



俺が生きて一緒にいれるなんて、そんな保証はどこにもないから。



「ありがと。」



先生は病室を出て行った。




秋に向き合った。


「秋、1つ言うよ。」


「うん」



「あのな、さっき言った通り、やっぱりちょっと今危険な状態だよ。俺。

見えないかもだけど、今結構心臓の音早くなってきてる。



弱い発作。でもどんどん強くなってる。



本当に今死ぬかもしれないから、言っておくよ。」



やばい、本格的に。


でも先生はすぐきてくれると言っていた。


今は察して出て行ってくれたけど、ナースコールを押せばすぐ出てくれる。


「なに?」




ごめんな、ここまで我慢したけど、やっぱり無理。



だけど返事なんていらない。


むしろ言わないでほしい。


今言わなきゃ、俺はずっと後悔する。






「秋、好きだよ。

ずっと好きだった。


…………




今まで言えなくてごめんな。


俺と、出会ってくれてありがとう。」



「え……あの、え?」



「ごめんな秋、こんな時に言って。


秋は俺のこと好きかもしれないし、好きじゃないかもしれない。


でも、どっちでもいい、俺。


秋に会えてよかった。」




「理央くん、私ーー」




「待った、言わないで。今何言われても無理。受け付けない。」


「えー!?」


「でかい声出さないの。」


「はい。」


「俺、秋の明るいところに救われた。

幸せだった。」



「理央くん、発作がっ」


秋がナースコールを押して榊先生が部屋に来た。



「先生。」


「どうした?」



「俺、もう満足。今なら死んでもいい。榊先生、もういい、俺、十分頑張ったでしょ?」


「ああ、理央、頑張ったよ。よく頑張ったな。」


頭をくしゃくしゃと撫でられる。


それが妙に気持ちよかった。


頬には冷たいものが流れている。


泣いているって気付くのには少し時間がかかった。



「理央くん、私、理央くんに会えてよかった。理央くんに救われた。

やっぱり死んでほしくないけど、理央くん、頑張ったんだもんねぇっ


注射も、何回もして、私が嫌がるようなこと、理央くん全部頑張ってきたんだもんねっ


理央くん頑張りすぎだよ。


こんな時にさ、こんな言葉しか言えないけど、理央くん、


ほんとにありがと!!!!!」



はは、秋、涙ボロボロこぼしながら満面の笑みしてるじゃん、変な顔。



でも世界で一番可愛いんだよな。



ほんと、ずるいやつ。





「知ってるよ。」


できるだけ笑って見せたつもり。



あれ、奏斗か?


なに奥でこっち1人で見てんだよ。


「かな、と?」


「理央様、っ、理央、ごめんな、ありがとう。お前のこと、絶対忘れない。だからさ、最後に言わせてくれ。


俺、お前のこと、やっぱ大好きだ。」


ははっ

なんで今更なんだよ、


「知っ、てるよ、バカ、おせーよ。」


「悪い」


ああ、俺の好きな奏斗だ。

子供みたいに笑う。


俺はそんな『お兄ちゃん』が好きだった。友達以前に1人の家族だった。


一生許さない代わりに、1つ絶対にかなえろ。



「奏、斗。
こっち、」


奏斗はすぐにこっちにきた。


「お、まえさ、秋のこと、好きな女のこと、絶対。守れよ、くそ。

ほんとは、お前にだって、わたしたく、ないん、だから、な。」


そう言うと奏斗は子供みたいに笑った。


「ああ。任せろ。」


クッソムカつく。

けど、


「秋、幸せになってよ。」



もうそれだけでいい。


もういい。秋が幸せなら、世界破滅でもなんでもしやがれ。



「もちろん!私に幸せじゃない時なんてないよ!」


だから涙止めろって。


あ、やばい。くるしー、か、も。


あ、これ、走馬、灯……?







『母さん!なんで死んじゃうんだよ!明日、明日も遊ぼうねって、仕事の休み取れたって、言ってたのに。


なんで、なんで病院にいるんだよ!

うそつき!


母さんのバカ!』




あ、こんなこと、言ったっけ?

あ、そうだ、お母さん傷ついた顔してた。



ごめん、母さん。



今だからわかるよ。こんなに発作って苦しかったんだな。



息するのも難しいんだな。


食事もとりにくくなって、声が枯れるんだな。



死ぬ直前、こんなに目が霞むんだな。



『ご臨終です』



そうだ、お医者さんが言ってた。


あの時は意味わかんなくてお母さん起こして。


『お母さん!僕お母さんのこと嫌いになっちゃうよ!それでもいいの?』



母さんもう生きてなかったんだよ。

そんなこともわかんなかったのか。




ごめん母さん、こんなこと言って。



仕事大変だけど頑張ってくれてて、空いた時間いつも会いにきてくれてて。





なのにお母さん、頑張ったはずなのに俺から責められて。



最低だな、俺。


今泣いたって意味ないんだけどな。



だけどさ、母さん、ごめんしか思えないよ。




ごめんな、







ごめん、ごめんな、母さん、



…………







あんなに、








……あんなに、可愛がって………










俺を育ててくれたのに











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