頼れる年下御曹司からの溺愛~シングルマザーの私は独占欲の強い一途な彼に息子ごと愛されてます~
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 思えば私の人生、常に男運が無かった。


 初めて彼氏が出来たのは高校一年生の夏休み前、一目惚れしたと駅のホームで他校の先輩から告白されて、よく知りもしないくせに人生初めての告白に舞い上がっていた私は二つ返事で彼女になった。

 だけど、その先輩は『超』がつく程の女好きで、私以外にも『彼女』がいた。

 それを知ったのは冬になって訪れた、私の誕生日当日だった。

 しかもあろう事か、親友だと思っていた子と先輩が一緒に居るところに鉢合わせるという、飛んでもない現場に遭遇して破局を迎えたというオマケ付き。

 それから月日は流れ、社会人になった私は教育係だった先輩と付き合う事になったのだけど、実は彼は単身赴任で地方には奥さんと子供がいて、知らないうちに不倫相手になっていた。

 そんな既婚者の彼とはすぐに別れ、それから半年くらい経って合コンで出逢ったのは私よりも五歳年上の優しく頼り甲斐のある人で、二年程交際した後、彼の子供をお腹に宿した私は彼と結婚する事になったのだけど――



「今更、何しに来たの? 約束と違うじゃない」
「相変わらず可愛げねぇな。堅い事言うなよ。悪かったって反省してるから、こうして来たんだぜ?」


 結婚してすぐ、彼の本性を知った。

 私が妊娠中に彼は外で女と遊びまくり、私がそれを問い詰めると言葉で罵倒の嵐。

 精神的に追い詰められつつも何とか息子が生まれた。

 子供が生まれれば変わると思っていたけどそれは飛んでもない思い違いで、生まれてからは言葉の暴力から身体の暴力へと変わっていった。

 頼る人が居ない私は必死に耐え続けたけど、息子にまで手を上げるようになった瞬間、離婚を決意。

 その頃彼には入れ込んでいた愛人がいたようで、養育費は払わない、不倫をした慰謝料のみで今後一切関わらないという彼からの条件に納得して離婚をしたはずなのに、


「関わらないって決めたのは、正人(まさと)の方でしょ? 来られても困るわ、帰って!」

 離婚から約一年半が経った今日、元夫である岡部(おかべ) 正人は突然、悪びれた様子も無く私、八吹(やぶき) 亜子(あこ)と息子、(りん)の前に姿を現したのだ。


 正人は釣った魚に餌はやらないタイプだ。

 結婚するまではとにかく優しくて、家事も積極的に手伝ってくれるし、記念日とかも大切にしてくれるマメな男の人という印象だった。

 大手企業に勤めていて収入も良いし、仕事も出来る。

 身長も高くて細身だけど程よい筋肉が付いていて男らしい身体つき、おまけに結構なイケメンで周りからは羨ましがられていた。


 男運の無いと思っていた私にしては、とても良い人と巡り会えたなんて思っていたけど、やっぱり男運なんて初めから無かったんだと思う。



「ああ? お前、随分言うようになったな? 俺がヨリを戻してやるって言ってんだよ、黙って従えよ、なぁ?」
「やっ……」
「行くとこねぇんだ、とりあえず泊めてくれよ、嫌とは言わせねぇぜ?」
「……っ」


 関わらないと自ら制約を立てた正人は私とヨリを戻すと言って話を聞かないばかりか、私たちのアパートに転がり込もうとする始末。

 初めこそ強く言い返していた私だけど、暴力を振るわれた日々を思い出してしまったせいか、身体が震え出して何も言えなくなってしまう。

 入られたら終わり。

 そう思ってもう一度追い返そうと口を開き掛けた、その時、

「おい、何やってんだよ? トラブルなら警察呼ぶけど?」

 丁度いいタイミングでお隣さんが帰って来たようで、不穏な空気漂う私たちに声を掛けてくれた。

「あ? 何だよ、テメェには関係ねぇだろ?」
「隣の部屋で変な事件とか起きたら嫌だし、何か言い合いしてるっぽいし、気にすんのは普通だと思うけど?」
「っクソ! おい亜子、また来るからな」

 強気に出ていた正人だけど、お隣さんが正論を口にした事や、相手が引かなさそうだと悟ったのか、苦々しい表情を浮かべると、『また来る』という台詞を残してアパートの階段を降りて行った。

「…………」

 正人がアパートから離れていくのを確認した私は安堵して小さく息を吐く。

「――平気?」
「え?」
「顔色悪そうだけど……」
「へ、平気です! それよりもありがとうございました、助かりました」
「ああ、別に大した事はしてねぇから。つーか、さっきの男は――」
「ママぁ!!」

 お隣さんが何か言いかけた時、部屋の中から凜が泣き叫ぶ声が聞こえて来た。

「あ、すみません、あの、本当にありがとうございました、失礼します!」

 出先から帰宅したタイミングで正人がやって来た事もあって凜だけを先に部屋へ入れていたせいか、いつまでも私が戻らない事を不安に感じたのだろう。普段あまり泣かない凜が泣いている事に焦り、お礼もそこそこに助けてくれた隣人の鮫島(さめじま)さんよりも先に慌てて部屋へ戻ってしまった。

「ママ!!」
「凜! ごめんね、一人にして」
「うわぁーん」
「よしよし、もう大丈夫だからね」

 泣きじゃくる凜を抱き締めた私はポンポンと規則正しいリズムで背中を叩きながらあやす。

 今日は何とか正人を追い返す事が出来たけれど、彼はまた来ると言っていた。

 その言葉が頭から離れず、先程のやり取りや過去の暴力の数々を思い出して再び身体を震わせていると、

「ママ、だいじょーぶ?」

 いつの間にか泣き止んでいた凜が心配そうな表情で私を見つめていた。

「う、うん、大丈夫だよ。お腹空いたよね、ご飯の準備しようね」

 凜の顔を見たら、いつまでも震えてなんていられなくて、大丈夫と心の中で言い聞かせながら笑顔を向けた。


 そして、

 この日を境に私の人生は、

 大きく動く事になるのだった。
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