頼れる年下御曹司からの溺愛~シングルマザーの私は独占欲の強い一途な彼に息子ごと愛されてます~
5
 竜之介くんと同棲してから二ヶ月が過ぎた、ある日の事。

「は? 一樹、今何て?」
「はい、ですから、旦那様からの言伝で、日曜日、こちらの方とお会いになって欲しいとの事です」

 仕事終わり、竜之介くんを訪ねてやって来た田所さん。

 大切な話があるというので二人がリビングに居る間、私と凜は部屋で過ごしていたのだけど、凜がジュースを飲みたいというので冷蔵庫へ向かおうと廊下を歩いて行くと、二人のやり取りが聞こえて来た。

 何だか聞いたらいけない話のような気がした私はリビングには入らず一度部屋へ戻ろうとしたのだけど、田所さんは私の存在に気付いているのか、そのまま話を続けた。

「こちらの方は西ノ宮(にしのみや)財閥のご令嬢。何でも、以前開かれたパーティーで竜之介様を見掛けてから、大層気に入っておられるとの事です」
「いや、そんな事言われても困るし。俺には亜子さんが居るんだ。それなのに他の女と会える訳無いだろ? 亜子さんの事は親父にも伝えているはずだ。それなのにどうして?」
「……竜之介様、失礼を承知で言わせて頂きますが、亜子様とのお付き合いは、今一度よくお考えになられた方が宜しいかと……」
「一樹、それはどういう意味だ?」
「そのままの意味でございます。名雪家のご子息ともあろう竜之介様が、バツイチで子供の居るような女性と交際しているというのは、やはり、あまり好ましい事ではございません」
「お前、それ本気で言ってるのか?」
「ええ。それに、旦那様も奥様も、亜子様との事はあまり良く思ってはいらっしゃいません。日曜日は、その事についても話し合いたいから自宅の方へ寄るようにとも申しておりました。朝十時にはお迎えに上がりますので、そのつもりで。それでは、私はこれで失礼致します」

 話を終えた田所さんがこちらへ近付いて来る気配を察した私は音を立てずに部屋へと戻る。

「ママ? ジュースは?」
「あ、ご、ごめん、もう少し待ってて」

 手ぶらで戻って来た私を不思議に思ったらしい凜に問い掛けられるも今はそれどころでは無かった。

 今の話から察するに、日曜日、竜之介くんはお見合いをするらしい。

 突然突き付けられた竜之介くんの縁談と、彼の両親が私の存在を良く思っていない事実。

 心のどこかで、こういう展開もあるかもしれないと思っていた部分はあったけど、竜之介くんが『大丈夫』と言ってくれていたから、すっかり忘れていた。

(……どうしよう……どんな顔して、竜之介くんの前にいけばいいの?)

 恐らく彼は、私が今の話を聞いていたなんて思っていないだろうから、話してはくれないだろう。

 それどころかきっと、竜之介くんは明日にでも両親に抗議しに行くような気がしてならない。

 仮に今回の話が流れたとしても、彼の両親が私の存在を良く思っていない限り、何の解決にもならない気がする。

(……私、本当にこのまま竜之介くんの傍に居ても、いいの?)

 彼と交際する前はよくそう思ったものの、付き合ってからは幸せな未来ばかりを夢見ていた。

 だけど、やっぱり私と竜之介くんじゃ住む世界が違うんだと改めて思い知らされ、何だか凄く悲しい気持ちになるのと同時に、この先どうなるのかという見えない不安が押し寄せていた。
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