限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。

11 図書室

 パッと目を見開いたら、すぐそこにギャレット様の美麗な顔があって、さっき見ていたはずの暗い悪夢の残滓は一瞬で消え去ってしまった。

 窓から差し込む眩い光と、曇りなき青い瞳の王子様。圧倒的な光量を前に心に後ろ暗いところのある私は、今にも消されてしまいそう。

 幻かなと思って何度か目を閉じて開いてを繰り返したんだけど、ギャレット様の顔は消えない。

 ということは、彼は本当にそこに居るということだった。

「え……? どうして?」

 自分でもびっくりするくらいに、かすれて寝ぼけた声が口から出て驚いた。

 両手にはざらりとした紙の感触。時間潰しにと物語を読んでいる間に、寝てしまったらしい。

 ここは私に用意されていた宮にある小さな図書室で、完全なる私室ではないけれど、誰もが簡単に入れるような空間ではない。

「俺は婚約者なんだが……現にここに入る時にも、誰にも止められなかった」

 苦笑したギャレット様は寝起きでなかなか思い通りにならない体を起こそうとした私を手伝いつつ、そう言った。

「そう……そうですね。申し訳ありません」

 そうだった。婚約者の私は単にこの宮を間借りしているというだけで、対してこの城の所有者の息子である彼は何処に行こうと勝手だから、何を言っているんだろう。私が何もかも間違っていた。

「いや。別に寝顔をまじまじと見るなと、怒ってくれても良い。ローレンは、いつまでも他人行儀だな……そろそろ、俺に慣れてくれても良いと思うんだが」

 ギャレット様はご自分が少しずつ距離を縮めようとしても、逆に後ずさって行くような私が不可解なようだ。

 それも、そうだと思う。

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