限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。
「遠慮なく!? いや、遠慮はするだろうけど、遠慮はしなければ、おかしくないか!?」

 しまった。結婚したら私の胸を遠慮なく触っても良いですよと、彼は取ってしまったのかもしれない。

 けれど、ここで先ほど自分が言った言葉を否定するのもおかしいかと、私は重ねて言った。

「いいえ。遠慮はしなくて良いと思います。夫婦ですもの」

 私は真面目な顔をしてそう言うと、ギャレット様の動きは止まり、その場に変な沈黙が落ちた。

「……すまない。そういえば、そろそろ戻らなければならないと思うし、俺は帰る」

 ギャレット様はふらふらとして立ち上がり、見ているこちらが心配になるような頼りない足取りで、図書室を出て行った。

 なんだか……よくよく考えて見ると、余計なことを言ってしまったかも知れない。けれど、言ってしまった言葉は戻らないし……過去は変わらないし。

 私が彼を裏切るまで、もうすぐだし。



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