限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。
 いとも簡単に呆気なく、私は彼の婚約者ではなくなり……ほんの少しの荷物を纏めて王都にあるイーサンの邸へと、移り住むことになった。

 王妃アニータ様は、私と交わした約束をきっちりと守ってくれた。

 とは言え、約束を破り私から彼女のしたことを明かされれば、彼女の立場だって悪くなるだろうから、それは当たり前のことなのかも知れない。

 今や元婚約者となった私の名前は、誠実な王太子の心を弄んだ悪女として、国民に知られることになった。

 面白おかしく妙な噂は立てられて、やってもいないことを、さも悪い真実のように語られる。お前が悪いのだから、見知らぬ誰かに悪く言われるのも仕方ないのだと言われれば、確かに納得も出来る。悪いのは私だから。

 その方が良い。

 もし、大富豪イーサンと逃げたことが美化されても、悲劇のヒロインを演じることなんて出来ない。とてもではないけど、良心の呵責に耐えきれなくなりそう。

 晴れて父が作ったメートランド侯爵家にあった巨額の借金はなくなり、領地からの定期収入は、これからはすべて私が管理し、父には使わせない。

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