限界王子様に「構ってくれないと、女遊びするぞ!」と脅され、塩対応令嬢は「お好きにどうぞ」と悪気なくオーバーキルする。
 けれど、性格的に真面目なギャレット様は、どんな理由があろうが騙していた私を許さないだろうと思う……彼の気持ちを利用して、自分の家族を守ろうとした利己的な私を許せなくなるはずだ。

 だから、これって単に起こりえない夢を見ているだけなのだけど……別に良いじゃない。逃げられない蟻地獄の中で、幸せになれる幻想を見たって。

 私が今している事を良心的な他の誰に言えば、「人を騙すことは、良くない」とさとすことだろう。

 けれど、それをしたら自分の家族を不幸から救えるとしたなら? 暗い夜に進む道を選ぶ人だって、きっと多いはず。

 綺麗事だけでは生きていけないという世知辛い現実をまざまざと知っているからこそ、あんなにも純粋なギャレット様を騙すことに同意した私。

 それでも……どうしても、苦しくなる。

 私は自分の本当の気持ちをギャレット様に話すことは、この先ないだろうってわかっている。弟クインの侯爵位の確約と借金の帳消しの代わりに、それをする権利をもう手放してしまった。

 胸が苦しい。彼がたとえ不器用だとしても私へ好意を示してくれる度に、辛くて堪らない。

 ギャレット様がああして向けてくれるまっすぐで温かな愛情を、私は……何食わぬ顔をして、いつか裏切るしかないのだから。


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