偶然同じ集合住宅の同じ階に住んでいるだけなのに、有名な美形魔法使いに付き纏いする熱烈なファンだと完全に勘違いされていた私のあやまり。

ーーーーーーコツコツコツ。

 高い靴音が、しんとした夜道に響く。今日も予想外の仕事の後始末なんかで、大分遅くなってしまった。

 確かに忙しいけど冒険者ギルドの受付の仕事を、嫌いだという訳でもない。

 どんな仕事だとしても、こういった急なアクシデントはたまに起こるだろうし、やりがいのある良い仕事だと思って難関だった受付の仕事を希望したからだ。おまけに、お給料だってそれなりに良い。

 自分の住む集合住宅に近い曲がり角を何気なく曲がったところで、いかにもな黒いローブを着用した大きな背中を発見し、私は息を呑んだ。

 背中だけでも誰だかわかってしまう彼は、若くして偉大な冒険者と知られる魔法使いで、ユーリ・マックロイ。そして、男性だというのに、やたらと美しい容姿を持っていることでも知られていた。

 これは完全に偶然なんだけど、一人暮らしをしている私は彼と偶然同じ集合住宅の同じ階にある部屋に住んでいた。運が悪いことに冒険者ギルドに勤め、職務上で彼の住所を知ることも出来る。

 彼は私の靴音を耳にしたのか、後ろを振り向き、けど何も言わずに前を向いた。

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