泡風呂を楽しんでいただけなのに、いきなり空中から落ちてきた異世界騎士が「ここに居たら戻れるかもしれないから、離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。
 年に二回のボーナス時には、私の憧れの高級ホテルは『おひとり様プラン』なるものを売り出している。

 今の時代には、若年層で独身主義の人はとても多い。こういった独り者用にと、向こうも手を変え品を変え色々と考えている訳だ。本当にありがとうございます。

 そして、私は半年に一度、恒例行事として一人で高級ホテルで過ごすということを何回か続けてきた。なかなか旅行には行きづらいけど、たとえ一晩でも非日常の中にいると、割と切り替えられると言うものである。

 そして、こういった高級ホテルにはお決まりのようにジャグジーがあり、泡風呂も楽しめる。

 だから、私は一人で泡風呂を贅沢に楽しんでいた……はずだ。

「ななななななななな……ななな」

 別に「な」しか発音出来ない訳でなく、人は驚き過ぎてしまうとこんな風になってしまうらしい。

 いきなり空中から現れた若い男性は、黒い指なし手袋をした手をばっと私の顔の前に出して、慌てたようにして言った。

「わかった。そっちも驚いたのは、わかった!! 俺! 異世界から来たから! 今ここで、騒がれるとそっちも絶対困るから!! どうか、落ち着いてくれ」

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