『愛が揺れるお嬢さん妻』 かわいいひと
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 電車に揺られて帰る道すがら、先ほど足早に出て来た事務所で見せられた
報告書の中にある画像と共に、説明を受けた夫の不倫相手の姿が思い浮かぶ。

 モデルのようにスラリと背が高くスタイルの良い女性だった。

 名前は夫の寝言から出て来た『美羅(ミラ)』でビンゴだった。
 覚悟していた名前なのに私は動揺した。


 山波美羅33才、英介さんより年上で大学の先生みたい。
 准教授と書かれているけれど、私にはよく分かんないや。

 教えるだけじゃなくて自分でもちゃんとイラストなどを描いてるみたいで、
イラストレーターとしても活躍していて、おまけにバイヤーもしている
らしい。


 もちろん、旦那さんもいて既婚者だ。

 そして驚くべきことに遊び相手は英介さんだけではないようで、独身の
イケメンモデルとも腕を組んでホテルから出て来る姿が撮影され報告書に
あがっている。


 彼女はこんな風に3人の男と楽しく人生を謳歌できる強者で、調べた
ところによるとイケメンモデルは仕事柄英介さんより後に出会った相手で、
美羅のほうが積極的にアプローチして交際に持ち込んだようだ。



『彼女の気分次第で旦那さんは案外早く奥様との生活、家庭に戻られる
可能性が大きいですよ』

とカウンセラーの木下さんから慰めの言葉を掛けられた。




 慰めてくれるのは有難いけれど、でもそれっ、ぜんぜん慰めに
なってないし。


 女に相手にされなくなって戻ってくるなんて、なにー、それー、だわ。


          ◇ ◇ ◇ ◇


 事務所で簡単に説明を受けたけれど、心が千々に乱れて平静を保つのが
精一杯だった。

 あれこれ考えているうちに気がつくとプラットホームがすぐそこに見えた。


 最寄り駅に降り立ち、改札口を通ってタクシー乗り場で車を待つ間、
乗っている間、家の玄関に立つまでの間、さまざまな感情の渦が苺佳を
襲った。


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