放課後はキミと。
「ご、ごめん。もって帰っちゃって」
うまく、笑えてるかな。
ごめんね。と申し訳ないように、笑えてるかな。
「連絡先も知らなくて」
「たしかに交換してなかったな。気付かなかった」
そういって、目の前に差し出された教科書を手にとって、ぱらぱらとめくる。
……やっぱり。
よかった。彼の勉強の邪魔しなくて。
「一日前に勉強してないなんて、さすが涼村くん」
「だれかさんの勉強をあほほど見たからな」
「……お世話になりました」
嫌味を言うと、ブーメランが返ってきたので早めに降参しておく。
彼には勝てません。
「……今日だな」
主語が抜けているけれど、それが何を指しているかなんて聞かなくてもわかる。
「……うん」
頷くあたしに、涼村くんは緊張していると思ったらしい。
「……今までがんばったから、50点はいける。自分を信じろ」
心地よくて、安心できて。
優しいその言葉は、どこまでもあたしを溺れさせる。
同時に、ひどく残酷で。
お願いだから。
やさしく、しないで。
うれしい。
でも期待しちゃだめ。
好き。
でも彼は別の人のモノ。
こんなに、好きなのに。
こんなに、一緒にいてうれしくて楽しくて。
でも、忘れなくちゃいけないんだ。
相反する感情は、あたしの心をぐっちゃぐちゃに乱す。
「どうした?」
黙ってしまったあたしに、涼村くんは心配そうな顔をして顔を覗きこんだ。
「涼村くん」
そう、これは忘れなくちゃいけない気持ち。
「今まで、ありがとう」
だから、自分で。
「もう、終わりでいいよ」
終止符を打たなきゃ、いけないの。
「もう噂もないし、いじめもないんだ。だから、涼村くんが気にすることなんて、なんにもなくて。あたしはもう、大丈夫だから」
涼村くんは目を瞬かせて、なにかをいおうとしたけれど、あたしは自分にできる一番の笑みを浮かべて、そのまま続けた。
「だから、偽の恋人も終わりにしよう」
そうしたらもう。
あたしと貴方を繋ぐものは、なにもなくなるから。