冷徹御曹司の偽り妻のはずが、今日もひたすらに溺愛されています【憧れシンデレラシリーズ】

覚悟しているとはいえ、避けられない未来を想像して杏奈は肩を落とした。

「話題になった作品の原画がかなり展示されてるらしいな。俺も早く見たくて仕方がなかったんだ」

響の弾む声を耳もとで聞きながら、杏奈は落ち込む気持ちとは裏腹に一瞬で顔をほころばせた。

個展に行くことを、響自身も楽しみにしてくれている。

「私も……ずっと楽しみにしてたの」

忙しい響とまとまった時間を一緒に過ごせるのは久しぶりで、今日が待ち遠しくてたまらなかった。

今日のために新しい服を用意し、苦手なメイクにも時間をかけた。

待ち合わせに向かう電車の中では弾む気持ちを抑えきれず、スマホに保存している響の写真を何度も眺めていた。

響と会えると思うだけで全身に温かな熱が広がり、幸せな気持ちが満ちていくのだ。

「初日は初川さんが会場に来ていたってネットニュースで流れてたけど、今日はどうだろうな」

響は指先を滑らせてタブレットの画面を切り替える。

よほど初川の個展が楽しみなのか、声は軽やかで弾んでいる。

杏奈は響の楽しげな横顔を盗み見ながら、つい口もとを緩ませた。

会社で見かけるきりりとした響は頼りがいと余裕があってもちろん素敵だが、仕事への責任感やプレッシャーから離れた今は、そこにキラキラとした好奇心が加わりさらに魅力的だ。

後継者という責任に縛られず大らかだった、入社前の響の姿が垣間見える。


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