『オーバーキル』これ以上、甘やかさないで

夏休み3日目。
あっという間に夏休みに突入し、来ないでと願っていた誕生日が来てしまった。

もとちゃんには、『ちゃんと向き合っておいで』と励まされた。

初恋の人を勘違いしていたのか。
ちゃんと虎太くんに恋して、失恋したのか。

匠刀と向き合って結論を出すことで、新しい恋もできる気がする。

「桃子~、匠刀くん来たわよ~?」
「はーい」

1階から叫ぶ母親の声に返事する。

「よし!けじめの誕生日にするぞっ!」

半袖のブラウスにフレアタイプのキュロットを合わせ、鍔の広い帽子を被る。

「何かあったら電話してね」
「はい」

玄関で会話する母親と匠刀。
こんな風に迎えに来るのなんて、いつぶりだろう。

「いってきます」
「いってらっしゃい」

母親に見送られ、自宅を後にした。

「今日、どこに行くの?」
「さぁ、どこだろうね」
「何、その言い方」
「いいから、今日は俺に任せとけばいいんだって」

確かに誘ったのは匠刀だし、デート自体初めてだから、私にどうこうできるプランなんてないけど。

「心配すんな。真夏の炎天下の中、外を歩きっぱなしにしたりはしねーよ」
「っ…」

心臓に難を抱えてる私を熟知している匠刀だから、体に負担をかけるような真似はしないだろう。
母親の連絡先も当然知ってるし、これまでも倒れる度に何度も私の親とやり取りしてるくらいだから。
その点においては心配してないけど。

『デート』というもの自体に、私は不安が尽きない。

もとちゃんが言うように、ちゃんと自分の気持ちを確かめる意味でも。
今日は匠刀としっかりと向き合わないと。

「手、握ってもいい?」
「おっ?」

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