『オーバーキル』一軍男子に脅かされています
破れそうな胸の痛みと新たな壁

8月某日、ブリスベン オリンピック16日目。
匠刀の兄である虎太くんが、空手の組手で出場する。

虎太くんのご両親と彼女の雫さんは4日前から現地入りしている。
虎太くんは、出発日前日まで部活に顔を出していたらしい。
部長だから、部員のことを第一に考えてのことらしいけど。

オリンピックと言ったら、4年に一度しかないし。
競技生活をしている中で、そんなに何度も機会があるとは思えない。

だから、責任感の強い虎太くんらしいなぁと匠刀と話していた。



「桃子~、始まった?」
「まだだよっ」

鍼灸院の待合室にあるテレビの前にスタンバイしている。

オーストラリアのブリスベンとの時差は1時間。
北半球と南半球で距離的には凄く離れてるけど、意外にも時差は殆どない。

「次の次の試合だって」
「お父さーん、次の次だって~」
「テレビに映ったら呼んでっ」
「はーい」

留守番の匠刀は、私と一緒にテレビ中継で兄の応援をする。
国際電話で母親に電話して確認した匠刀が、待合室の椅子にドカッと座る。

今日くらい休診にしたらよかったのに、予約が何人か入っていたらしい。
とはいえ、虎太くんの試合になったらそっち優先していいと言ってくれる常連さんたちだ。

「なんか、緊張して来た」
「何で桃子が緊張すんだよ」
「だって、虎太くんだよ?」
「だから?……まだ気になってんのかよっ」
「違うよ!!」

昔から知ってるからじゃない。
あんたのお兄さんだから、家族みたいな気持ちになっちゃうんだよ。

「オリンピックに出れるだけでも凄いことだよ」

この舞台に立つために、たゆまぬ努力をして来たんだろうから。

「あ、親父映ってる」
「え?」

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