センセイ、ありがと。
お、めっちゃ嫌な顔するやーん





「すまん、そんな顔するな」





「……ほんとかなー?……私さ、全然自分のこと嫌いじゃないんだけどさ」




「うん」




「それみたいなんだよね」




?どういうことだ?





「あー、なんていうのかなー。……私さ、この格好、結構珍しいって言われるんだけどね。髪型とか。」




あー、確かに珍しいかもしれない。



というか、毎日髪型変わってるからな。





「そんで、なんかそれが気に入られちゃったみたいでね。」





なるほどな。



多分その生徒は、水無月の周りに流されないとこが好きなんだろうな。





「俺も、お前のそういうとこ気に入ってるよ。」





「えへへっセンセ、ほめるのジョーズだねー!うれし!」





この喋り方とか、笑い方とか、すんげーいいと思う。って、それ言ったら流石にセクハラになるか。




心に留めておこ。





「センセ、できた。」



「ん、みせてみ。」





ヒョイっと紙を取って採点をする。




お、これ。





「満点じゃん。えらいえらい。」




特別にはなまるの絵を描いて渡す。












無意識のうちに頭に手を伸ばしていた。






多分きっと妹とよく似ていたからだと思う。







「あれ?なでないの?」






「今の時代それすると捕まっちゃうのよね。」





「そっかー、」





なんか残念そうにしてるな




まあ、こいつならチクったりしないよな。






頭をわさわさと撫でる。







こいつ、かみきれーだな。





「えっへへっ!うれし!」





わお、女子に恨み買わないか?この可愛さは。




ストーカー男子のことちょっと叱れないなぁ。




「センセ、もっとやりたーい。」




「ん、そのつもり。はいこれ。」




「さっすがー!」




ヒラヒラと紙を受け取った水無月の顔を見つめる。




水無月が話したいことはまだあると思う。




「私さー、悪口って嫌いなんだけどね。」




プリントから目を離さずに話し始めた




「うん」







「でもむりだぁ、やっぱ言っちゃう。」





そりゃそうだよ、と、言うつもりだった。





プリントに大粒の涙がポタポタと落ちるのでやっとわかった。







泣いていた。






「お母さんの子供だからなのかな。」






泣いてるのを、気付かれているのはわかっているんだろう。




何度も涙を拭いながら唇をかみしめていた。




それでも笑っていた。彼女なりの反抗なのだろう。







「水無月、俺はなんも知らないから偉そうなこと言えないけど、お前は、お前の母さんじゃないぞ。

母さんのものでもないし、全く違う人間だ。」






「うん」




より涙の流れるスピードが加速していく。








ごめんな、と思う。





俺は人に何かを聞くのが苦手だからさ、お前の考えてること、わからない。







「センセー、全然教師って感じしないね。ぜーんぜん向いてない。」





涙を止めてにかっと笑って言う彼女にこらー、と一応注意しておく。




「ジョーダンだよ。まあ、お兄ちゃんって感じかな。私センセイが担任でよかった。」






“お兄ちゃん!”

“だーいすき!”







「……ん、それならよかった。……好きなものはあるか?好きな人。嫌いなもの。やりたいこと、親友。一つでもあるか?」







「……唐突だねー!んー、どうだろう。分かんないなー。……でも私、勉強は嫌いじゃないかも。でも国語は苦手。数学とかは好き。」





「国語?なんで?」






「物語が、よく分かんないや。ハッピーエンドにならない。……物語としてはハッピーで終わってると思うんだけどね、なんだろ、悪いほうで考えちゃう。この人がここでこんなセリフ言うわけない、って思うし。

その点数学では公式があって、答えが明確に決まってて、だから好きなのかも。覚えるだけ。

ま、自分の考えしか頭にないってことかなー。」






気持ちわかるかもな、俺もその考えでなんとなく数学教師になったし。


ま、そんなこと生徒には言えないけど。






「でもそれって、深読みが得意ってことでもあるんじゃないの?  

ま、確かに読み取る力としてはテストでは役に立たんのかもしんないけど、まあでも、人生は小説みたいにハッピーエンドに終わるわけでもバッドエンドに終わるわけでもないから。
その考えは人生で必要なものだと思うよ。」







「ナイスリフレーミング!そんなふうに考える人見たことないや。国語のセンセイにもちょいと手間かけさせてるかもだし。」






「ん、まあ、いいんじゃない?」




それでこそ教師と生徒だし。





「だから軽いんだって」と言って笑った水無月の目にはもう涙はなかった。





もう、大丈夫だな。





「ん、もう帰りなさい。下校だから。まあなんか話したいと思った時は来ていいよ。」





「やったー!じゃあね、センセイ、プリントの結果は明日教えてよ。」





「あ、もうできた。一問だけ間違えてたぞ。凡ミスかな。次は気をつけて。でもまあ頭はキレるみたいだし、勉強に関してはだいじょぶそうだな。」





「センセこそ、頭キレすぎでしょ。なに?今十秒経ってなかったくない?」





「ん?まあ、高校二年くらいのならな。大学三年とになると採点に三十秒はかかる。」





「……天才だってことはわかったよ。まあとりあえずバイバイ。あと元気出た!またくるね!」



「はいよ。さよなら。」




ガラッと開けてガラッとしめた。



最初は静かに開けて静かに閉じてたから、やっぱり緊張してたんだろうと思う。




窓を開けて秋とはいえまだ暖かい空気を吸い込んだ。





ん?





あ、水無月か。




熱い視線が来た。






は、や、く、か、え、れ




と口で伝えるとあっかんべーをされた。





すぐに手を振りながら走って帰っていく水無月の後ろ姿を見つめる。



見えなくなるとなんだかホッとしてあくびが出た。



 
騒がしいやつだ。






















































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