モブ未満

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それは一体、だれがいいだしたことだったのか。


「矢束に文化祭終わるまでにキス出来るか賭けてるんだって」
そんな賭けをすることが男子の中で静かに広がっていた。

スクールカーストの中の下あたりの僕にまで届くくらいだから相当広がっているんだろう。


矢束澪(やつかみお)は才色兼備で、最初からとても目立っていた。

ぱっちりした二重に茶褐色の瞳。
高い鼻、ぷっくりした唇。
透き通るような白い肌、華奢な手足。
そんな女の子が入学式で新入生代表で壇上に立ったんだから、その場が色めき立つのも当然だった。

透明で澄んだその声に、好きになった男は何人いたんだろう。
かくいう僕も、その一人なんだけど...。


一年生も二年生も同じクラスだった時、どんなに嬉しかったか。
もちろんスクールカースト下位の僕が、トップの矢束さんに話すことなんて叶わないわけだけど。
席替えで少しでも近く祈ることしかできないようなそんなレベルだ。

同じクラスである利点を生かせないまま、こうして二年の秋を迎えようとしてしまっている。

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