モブ未満

4


二日目は前半がクラスの出し物で後半は各部活の出し物になる。
体育館や校庭で歌を歌ったり、ダンスを披露したり、各部活それぞれで決めている。
僕は帰宅部なので何も関係がないのだけど。 
女子テニス部はチアらしく、矢束さんを見に大盛況とのことだった。

僕は時間潰しに食堂でカップケーキを買ってゆっくり食べて、同じように帰宅部で物静かなタイプのやつらと中身のない会話をしていた。

「矢束澪の賭けってどうなってんの?」
不意に聞こえてきた会話は、僕の興味を一瞬で惹いた。

「あー何人か直球で告ってふられたらしいぞ」
「今日までだし、誰も勝たず終わりそうだな」
「でもさっき、矢束とキスしてくる!と声高らかに今野が宣言してたの俺見た」
「あーあいつだったら無理やりしそうだよなあ。かわいそうに」

なんだって!?

思わず立ち上がると、話していたヤツらが僕を見た。
「どうした? 木下」
「せ、先生に呼ばれてたこと思い出した! 僕、ちょっといってくる!」
僕はおざなりにそんな嘘をついて、駆け出した。


矢束さんがどこにいるのかなんて見当もつかないのに。
女子テニス部の出し物はもうさすがに終わってるよな⋯。

校庭を最初に覗くと、サッカー部がダンスをしていた。
そこに何人かの女子テニス部の姿は見つけたが、矢束さんの姿はない。

もし、今野くんが矢束さんを狙うんだったら人目につかないとこを狙うはずだ。
学校で人目につかないところといえば、いまだったら教室か?
それとも、裏庭か?

教室を覗いてみたか何人かの女子生徒がきゃっきゃ騒いでるだけだった。
裏庭にもいない。


どこにいった?


走り疲れてとぼとぼ廊下を歩いていると、

「何か用?」

矢束さんの声が階段の上から聞こえた。


はっと声の方向をみて、音を立てないように階段を上がる。
階段の踊り場に男子と矢束さんが立っていた。
あの男子が、今野くんなのだろうか。
今野くんはひょろりと長身で髪をあちこちに跳ねさせていた。顔は見えない。

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