溺愛社長の2度目の恋
いや、檜垣さんとの結婚も、有史さんとの離婚も、考えないようにしていた。
そうじゃないとうだうだ悩んで、仕事が手に着かなくなる。

夜も有史さんは私に、食事を作ってくれた。

「離婚届、もらってきたからあとで渡すね」

「ありがとうございます」

どんどん、有史さんとの離婚が現実味を帯びてくる。
でも、決めたのは私だ。

「それから。
短期間に何度も引っ越しするのは大変だろうから、檜垣との新居が決まるまではここにいたらいいよ」

「……ありがとうございます。
お言葉に甘えさせてもらいます」

有史さんと一緒にこうやってごはんを食べるのもつらいはずなのに、彼との生活が伸びたと喜んでいる私が、よくわからなかった。

食後、有史さんは離婚届を私に渡した。

「夏音がサインすれば出せるようにしてある。
タイミングは夏音に任せるよ」

「わかりました。
私もこれ、お返ししますね」

テーブルの上に有史さんからもらった結婚指環を滑らせる。
彼の妻じゃなくなる私には、もう必要ない。
それに今は、それが嵌まる場所には檜垣さんからもらった指環が嵌まっている。

「……そう、だね」

つらそうに目を伏せた有史さんを、無感情に見ていた。

もらった離婚届を掴み、自分の部屋に行く。
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