溺愛社長の2度目の恋
第9話 幸せになるのを許してほしい
翌朝、キッチンでは有史さんが朝食を作っていた。

「おは……よう」

気まずそうに彼がちらりとこちらをうかがう。
それを無視して洗面所へ向かった。
鏡に映る私はいかにも寝不足で、不機嫌そうな顔をしている。

「ああ、もう!」

苛々する気持ちを洗い流そうと、勢いよく顔を洗う。
最後に、思いっきり頬を叩いた。

「よしっ!」

悪いのは有史さんじゃない、勝手に期待していた私だ。
せめて最後は気持ちよく、お別れしなくては。

「おはようございます。
お皿、出しますね」

「う、うん。
お願いするよ」

努めて普段どおりを演じ、棚からお皿を出す。
それに料理を盛り、有史さんはいつものように深里さんのお盆を持った。

「先に食べてていいからね」

今日も料理を彼は深里さんのもとへ運ぶ。

「……あれ、いつまでやるんだろ」

ダイニングテーブルに料理を運びながら、不満が漏れる。
今まではあれが、尊いと思っていた。
でも今は、私を、周囲の人間を、拒絶しているとしか思えない。

「待ってなくてよかったのに。
さ、食べようか」

「はい、いただきます」

もう定番になったこの会話を交わすのも、あと何回かだ。

仕事はいつもどおりだった。
< 126 / 184 >

この作品をシェア

pagetop