誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)

マネージャー森元の呟き

早朝、東京駅でスーツ姿の男が所在無く立ち尽くす。

彼は北條蓮のマネージャー、森元圭吾だ。

この5年、北條蓮のスケジュールを管理し、彼を動かし、ここまで有名にしたのは俺のお陰だと自負していた。

昨夜、突然蓮が消えるまで…。

北條蓮は物静かな男だった。

類稀なる才能を持ちながら、それをひけらかす事も無く、ただ淡々と仕事をこなすかのように、いとも簡単に凄い曲をいくつも書き上げてくる。

この5年、特に不満を言う事も無く、
俺が立てたスケジュールに従って、淡々とこなしていく。そんな感じの男だった。

腹を割って話した事は一度も無い。
5年ずっと一緒にいて1番近くで彼を見ていたから、俺はなんでも蓮の事は知っていると、勝手に思い込んでいた。

昨夜、
仕事終わりに最終の新幹線に乗る予定だった。それなのに、赤信号で車が止まった途端、突然降りて居なくなってしまったのだ。

何も告げず、スマホも財布も全て置いて居なくなった。

慌てて車を停め、運転手と手分けして探す。

何も持っていないんだ。
そんな遠くに行ける筈はない。

焦りだけが募り、今後のスケジュールが頭に浮かんでは消える。
こんな事、もう2度は無いと思っていたのに…

3ヶ月前、蓮が舞台から突然落ちて救急車で運ばれた時、目の前が真っ暗になった。

何が起きたのか現実を受け止められず、しばらく呆然とした。

それまで俺は蓮をただの商品のように思っていたのかも。
いや、俺の思い通りに動くロボットのように思っていたのかも知れない。

蓮はれっきとした生身の人間だったのに。

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