ファーレンハイト/Fahrenheit
プロローグ

15歳の夏

 眩しい太陽を目を細めて見上げる女の子。後ろでひとつに結んだ髪。まだ長さが足りない横の髪はピンで留めて、太陽の光がそれに反射する。

「進路は決めた?」

 セミの鳴く声がうるさくて、顔を近づけないと何を言っているのか分からない。
 彼女は俺の返事を待たずに前を向いて俺の先を行く。
 俺は何も言わずにその後を追う。
 噴き出す汗は、暑さだけが理由ではない。

 ――待って、待ってよ。

 カバンの中には彼女に宛てた手紙がある。夏休み前に渡したかったけど渡せなくて、もう一ヶ月も入れたままの手紙を今、渡そうとして、俺は彼女を呼び止めた。
 振り向いた彼女はカバンを開けた俺の手元に目線を落とした。
 取り出した手紙を、汗が滲む封筒を、俺は彼女の手に当てた。

「優衣ちゃん、手紙、あの……読んで」

 その手紙を手に持ち、宛名を見ている優衣香が顔を上げないうちに、俺は走り出した。
 額の汗が目に入る。

 セミの鳴き声と照りつける太陽と身体にまとわりつく熱い空気。

 後ろから俺の名を呼ぶ声がした。
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