ファーレンハイト/Fahrenheit
第1章

#01 初めての花束

 その日、帰宅した笹倉(ささくら)優衣香(ゆいか)は郵便受から取り出した郵便物をエレベーターの中で確認していた。
 クレジットカードの明細にダイレクトメール、そして何も書かれていない葉書――。
 その葉書を裏返して「久しぶりだなあ」と呟く優衣香は、書かれた宛名の文字を見て頬を緩ませている。

 差出人の名もメッセージも無い、宛名だけが書かれたその葉書は、差出人が近日中に優衣香の家を訪れるという意味を持つ。

 優衣香がこの葉書を初めて受取ってから十年が経っていた。

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