ファーレンハイト/Fahrenheit
 後ろから降り注いだ思いがけない言葉に驚いて優衣香を見た。優衣香は俺の服を掴んでいた。本当にしてもいいのか、優衣香の顔色を伺う。
 優衣香は唇を引き結び、俺を見上げ、唇に視線を落とした。

――本当に、いいの?

 俺は優衣香の肩に両手を乗せ、目を閉じる優衣香に唇を合わせた。薄くて柔らかい唇だった。
 目を開けた優衣香の瞳は潤んでいる。俺の腰に添わせていた優衣香の指に力が入った。

――もっとしていいの?

 そんな目で見られたら、俺はもう止められない。
 右手で優衣香の頭を抱え、左腕で優衣香の腰を抱いた。優衣香を引き寄せて優衣香の唇を歯を、舌でこじ開ける。優衣香の上顎を舌でなぞり舌を絡ませる。
 混ざり合う水音と苦しげな優衣香の吐息が響く。

 唇を離して、優衣香の半開きの唇に視線を落とす。
 優衣香の唇から溢れた唾液を舌で絡め取り、濡れる唇を舌でなぞり視線を合わせると、優衣香がまた唇を合わせて来た。
 優衣香が漏らす甘い吐息は、劣情を煽る。

――優衣ちゃんなんで……なんで今なの……。

 抱きしめた優衣香の向こうに花瓶に挿した二本の薔薇があった。
 意味は――。

 この世界にふたりだけ

――このまま時が止まってくれれば良いのに。
< 11 / 232 >

この作品をシェア

pagetop