ファーレンハイト/Fahrenheit
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『もしもし、お父さんだけど、あのさ、敬志にね、お父さん、伝えたい事があって電話しちゃった。ごめんね』

『でね、今日ね、連絡が来たんだけど、採用試験の面接で松永(まつなが)雅志(まさし)さんのような優しい警察官になりたいですって言ってくれた子がいたって話、前にしたでしょ? その子がね、採用されたんだよ。お父さん嬉しくて嬉しくて。ふふふっ』

『そうそう。腕を掴まれて車道に放り投げられた子。お父さんがずっと抱っこしてあげてた子ね。細くて小さくて、ずっと泣いてた子だったなあ』

『ふふふっ、お父さんがきっかけで警察官になりたいと言ってくれた初めての子なんだよ。ふふふっ、お父さんすごく嬉しい』

『でね、その子は敬志の三つ下で、名前は相澤裕典くんって言うから、いつか紹介するからさ、仲良くしてあげて欲しいんだよ』

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「裕くん、後はよろしくね」

 そう言って、俺は部屋を出た。
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