ファーレンハイト/Fahrenheit
 一月十二日 午前二時三十四分

 ビルの隙間を抜ける風は冷たく、スタンドカラーのコートの襟を寄せる加藤奈緒を、隣の本城昇太がちらりと見た。
 道幅は狭く、車がすれ違うことはできないその道を歩いているのは二人だけだった。加藤は寒そうに身を縮めている。吐く息は白く、宙に浮かんでは消える。

「姐さん、本当に来ちゃうんですね……」
「……まあ、仕方ないでしょ」

 二人はマンションに戻る途中だが、戻りたくないのか、足取りが重いようだ。

「あんたはさ、何で玲緒奈さんが怖いの?」
「あー、俺はアレです。松永さんの……あ、お兄さんの方の……」

 初めて聞く二人の話に耳を傾けている加藤の表情は、だんだんと優しくなっていった。

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