ファーレンハイト/Fahrenheit
 また相澤が私の体の上に来ると苦しいから、私は身を躱して横向きになった。
 相澤の首に腕を回したまま横向きになると、相澤は私の背中に腕を回した。

「裕くん」
「奈緒ちゃん」
「寒いから布団に入ろうよ」
「あ……うん」

 起き上がり、一度ベッドから下りて布団に入り直した。セミダブルのベッドは、二人で寝ると狭い。

 マットレスの隅っこにいると相澤は私の体を引き寄せた。隅っこじゃなくとも大丈夫だったのか。相澤は私の肩と腰に腕を回した。相澤の体が密着している。
 下はトランクスだけの相澤は、足が冷えていた。つま先が相澤の足に触れた時、すごく冷たかった。
 電気毛布は暖かい。
 相澤の冷たい足を、電気毛布が当たらない部分を、私は暖めてあげようとして足を相澤のふくらはぎに乗せた。
 それから相澤の顔を見ると、相澤は私の足の間に割り入って来た。そして私の背中はシーツに沈められて、相澤は私に覆いかぶさった。

 ――元に戻った。

 苦しいから横向きになったのに。どうしてこうなった。

「裕くん……んふっ……ふふふっ」
「奈緒ちゃん、なに?」
「苦しいから……横に……んふっ」
「ああっ!」

 相澤はまた横向きになり、「ごめんね」と言って私を強く抱き寄せた。私の下腹部に、熱く張りつめて、硬くなったものが当たっている。
 小さくて可愛い女の子が好きな相澤が、でかくて可愛げのない女に欲情している。
 相澤は、好きでもない女を抱けるのか。

「裕くん……あの……」

 私は熱く張りつめたそれに手を伸ばした。
 指先が触れた時、相澤は私が言いたかった事を理解したのか、「そうだよ、奈緒ちゃんだからだよ」と言った。

「でも、私を好きか分からないんでしょ?」
「それは……」

 ――始めたら、終わりがある。

 始めなければ良いのだ。
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