ファーレンハイト/Fahrenheit

#02 幕間 始まった二人(後編)

 どうして何もしないのだろう。
 もしかして、私がキスしたいと言ったから、キスだけなのか。

「葉梨」
「はい」
「したい?」
「……はい、したいです、けど……」

 やっぱり何か遠慮している。それは何だろうか。
 葉梨は私の背中に添わせた手をTシャツから出して、体の向こうに置いた。葉梨の二の腕が微かに私の体に触れているだけで、私達の間には隙間がある。

 葉梨は「加藤さん」と呼び、見上げると困った顔をしていた。

「今日は、合コンの件でお詫びに来ました。だから、あの、しちゃいけないと思って……」

 葉梨はどこまで真面目なんだろうか。
 謝罪は受けたし気にしていないとも言った。そもそも気にしていないのだから許すも何もないのだが、許されていないから何も出来ないと言う。

「そっか。分かった」

 私はそう言って、葉梨の腕の中で反転した。
 葉梨の腕を掴んで胸に抱き寄せて、「寒いからくっついてよ」と言うと、葉梨は言われた通りに私に体を寄せた。

「じゃあ、今日は何もしない」
「はい。あの、すみませんでした」
「うん」

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