ファーレンハイト/Fahrenheit
最終章

#01 君としたい(前編)

 相澤と口裏を合わせているが、俺は官舎の所在地を優衣香に嘘をついている。
 これまで官舎に優衣香を招く事が無かったから問題はなかったのだが、今日は優衣香が車で迎えに来る。
 もちろん適当な場所で待ち合わせすれば良いのだが、今日は大きな荷物があるから困っている。
 その大きな荷物があるから優衣香が車で来るのだが、その大きな荷物を持ったままでも問題ない適当な待ち合わせ場所はどこなのか、見当もつかず俺は困っている。

 ――百キロのバーベルを担いで待ってても大丈夫な場所ってどこかな。

 バーベルのシャフトはただの金属棒だ。それだけなら問題ない。俺は警察官だし、万が一職質を受けても、まあ、大丈夫だ。とっても面倒だけど。
 だが問題はバーベルプレートだ。合計百キロのバーベルプレートとシャフトで分けてしまったら、持ち運びがとても辛い。どうすれば良いんだ。
 全ては、マッチョしかいないジムのせい――。
 そう思っているが、そもそも優衣香がマッチョしかいないジムに行った理由は俺のせいだ。だから百キロのバーベルを担いで途方に暮れている俺の責任だ。

 ――夢で揉んだおっぱいがおっぱいじゃなくても俺は良かったのに。

 結局、正直に優衣香に官舎の所在地を教えて、車を横付けしてもらう事にした。

 電話した時、優衣香は「車を買い替えたんだよ」と嬉しそうに話していた。車種は言わず、「楽しみにしててね」と言った優衣香の弾んだ声が可愛かった。

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