ファーレンハイト/Fahrenheit
 昨日の夜、優衣香は会いたいと言ってくれた。俺の事を初めて好きだと、大好きだと言ってくれた。だから信じても良いはずだ。
 間宮と一緒にいる理由は知らないが、それだけはしないはずだ。だって次会った時はこの前の続きをすると約束したじゃないか。優衣香は俺の女になったはずじゃないか。どうしてだよ。何でだよ。何でこんな事になってるんだよ。何で優衣香が間宮と一緒にいるんだよ。何で間宮が俺の優衣香に触ってんだよ……何でだよ。

「あの……松永さん……」
「あ?」
「いや……」

 間宮と優衣香に背を向けて、俺達は歩き出した。
 野川は忠告を守り、一度も振り返る事はしない。
 俺にはそれが恨めしかった。

「お店ってまだやってるんですかね」
「ああ」

 時計を見ると午後十時五十二分だった。
 文字盤に街灯の灯りが届いてカレンダーの数字が目に入る。

 12

 ――優衣香の誕生日だ。

 誕生日に間宮と一緒にいる優衣香。
 優衣香の部屋で一緒にいる時の優衣香しか知らない俺。

 俺の知らない優衣香が、そこにいた。
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