ファーレンハイト/Fahrenheit

#02 野獣2人

 長い髪の手入れが面倒くさいと言って弟に任せたこの頭は、結んだ時の髪型を『マンバン』と呼ぶのだと教えられた。「毛量が半分になって手入れが楽になるよ」と弟は言ったが、「違う、そうじゃない」と可愛い弟に言えなかった。
 兄も俺も歳の離れた弟を可愛がり、今でも兄弟仲は良い。以前、兄も「違う、そうじゃない」と言いたくなった髪型にされた事があったそうだが、可愛い弟には言えなかったと言っていた。

 前の茶髪パーマの時から髪が長く、後ろで結ぶ事もあったが、今は頭の下半分が刈り上げてあってすごく寒い。そのうち風邪をひきそうだから、午前中に署へ行った相澤が官舎に寄ってから戻るというので、俺の部屋からマフラーを持ってきてもらうよう頼んでおいた。多分、ゴリラは忘れるだろうと思っていたら、やっぱりゴリラは忘れた。

「もうっ! 寒いんだけど!」
「すみませんでした」

 ――あれ、なんか変だな。いつもなら言い訳するのに。

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