ファーレンハイト/Fahrenheit
相澤の声でキッチンにいた葉梨もリビングにやって来たが、『女教師モノ』の姿の加藤が跪いている相澤の足に怪我をした足を乗せ、相澤が足を眺めている姿に若干引いていた。
加藤が怪我したと分かると葉梨も加藤に近づいたが、それよりも早く相澤が加藤をお姫様抱っこした。軽々と加藤を抱き上げた相澤は椅子まで加藤を運んだ。たかだか三メートル程度なのに相澤はお姫様抱っこしたのだ。こういう優しさに加藤は恋をしたのだろう。加藤はびっくりした表情をした後、口元を緩ませて相澤を見上げていた。
椅子に座った加藤は、段差ですっ転んだと言い、「最近、ハイヒールを履いてなかったから慣れようと思って」と続けた。
「もう! 奈緒ちゃん昨日も転びそうになってたでしょ! あんな高いハイヒールなんて履くからだよ!」
相澤は頬を膨らませて加藤に怒った。それを見た加藤は笑っている。葉梨はポンコツ野川の怪我に使った高い絆創膏を救急箱から取り出して、洗面器を取りに行って戻って来た。
――あ、これ既視感ある。
俺は高い絆創膏を手のひらで温めながら、この後に加藤はストッキングをどうするのか眺めていた。膝は打っただけだが足の甲はかなりの傷で、ストッキングは脱がないといけない。
椅子に座った加藤に跪くゴリラと熊――。
――美女と野獣二人
暑苦しいラブストーリーだな、と思ったら笑ってしまった。加藤がこちらを向いたが、加藤も笑っている。野川が葉梨の前でストッキングを脱いだ事を知っている加藤は、跪く野獣二人の前に立ち上がってこう言った。
「私、ストッキング脱ぎまーす!」
そう言ってスカートの裾に手をやった加藤を見て、野獣二人は目を見開いてすぐさま立ち上がり加藤に背を向けた。俺は手のひらで絆創膏を温めながら、その姿を見ていた。野川はフレアースカートだったが、加藤はタイトスカートだ。
――パンツ全部見えるね!
背を向けない俺を見た加藤が「松永さんは?」と言って、葉梨も相澤も俺を見た。
「奈緒ちゃんのパンツ見たら土下座しなきゃだめだよね?」
「そうですね」
「なら土下座する。奈緒ちゃんのパンツ見たいから」
「バカなんですか?」
俺は笑いながら腕を伸ばしてテーブルに突っ伏した。それを見た加藤は声を出して笑っていたが、すぐに加藤が「もう良いですよ」と言って、加藤を見ると、加藤は座って足を上げ、太ももから黒いストッキングを破いていた。
――ぼくパンツよりこっちが好き。しかも黒スト!
振り返った相澤は目を細めて呆れた顔をしている。加藤の女性らしからぬ素行と大雑把な性格をよく知っているからだろう。だが、葉梨はどうだと見ると、やっぱり耳を赤くしてした。そうだろう、女教師モノでストッキングを破いているのが加藤だもんな。自分が破りたいよね。俺も破りたいもん。
「奈緒ちゃん! そういうのは良くないよ!」
「なんでよ?」
「奈緒ちゃんは女の子なんだから!」
「もう三十路だよ? 別に良くない?」
「違う! そうじゃない! もう!」
頬を膨らませてまた加藤に怒っている相澤と、その隣で耳を赤くしている葉梨を見上げ、肩を揺らせて笑いを堪えている加藤。
――たのしい動物園だこと。
手のひらで温めた高い絆創膏を葉梨に手渡しながら、俺も笑いを堪えた。
加藤が怪我したと分かると葉梨も加藤に近づいたが、それよりも早く相澤が加藤をお姫様抱っこした。軽々と加藤を抱き上げた相澤は椅子まで加藤を運んだ。たかだか三メートル程度なのに相澤はお姫様抱っこしたのだ。こういう優しさに加藤は恋をしたのだろう。加藤はびっくりした表情をした後、口元を緩ませて相澤を見上げていた。
椅子に座った加藤は、段差ですっ転んだと言い、「最近、ハイヒールを履いてなかったから慣れようと思って」と続けた。
「もう! 奈緒ちゃん昨日も転びそうになってたでしょ! あんな高いハイヒールなんて履くからだよ!」
相澤は頬を膨らませて加藤に怒った。それを見た加藤は笑っている。葉梨はポンコツ野川の怪我に使った高い絆創膏を救急箱から取り出して、洗面器を取りに行って戻って来た。
――あ、これ既視感ある。
俺は高い絆創膏を手のひらで温めながら、この後に加藤はストッキングをどうするのか眺めていた。膝は打っただけだが足の甲はかなりの傷で、ストッキングは脱がないといけない。
椅子に座った加藤に跪くゴリラと熊――。
――美女と野獣二人
暑苦しいラブストーリーだな、と思ったら笑ってしまった。加藤がこちらを向いたが、加藤も笑っている。野川が葉梨の前でストッキングを脱いだ事を知っている加藤は、跪く野獣二人の前に立ち上がってこう言った。
「私、ストッキング脱ぎまーす!」
そう言ってスカートの裾に手をやった加藤を見て、野獣二人は目を見開いてすぐさま立ち上がり加藤に背を向けた。俺は手のひらで絆創膏を温めながら、その姿を見ていた。野川はフレアースカートだったが、加藤はタイトスカートだ。
――パンツ全部見えるね!
背を向けない俺を見た加藤が「松永さんは?」と言って、葉梨も相澤も俺を見た。
「奈緒ちゃんのパンツ見たら土下座しなきゃだめだよね?」
「そうですね」
「なら土下座する。奈緒ちゃんのパンツ見たいから」
「バカなんですか?」
俺は笑いながら腕を伸ばしてテーブルに突っ伏した。それを見た加藤は声を出して笑っていたが、すぐに加藤が「もう良いですよ」と言って、加藤を見ると、加藤は座って足を上げ、太ももから黒いストッキングを破いていた。
――ぼくパンツよりこっちが好き。しかも黒スト!
振り返った相澤は目を細めて呆れた顔をしている。加藤の女性らしからぬ素行と大雑把な性格をよく知っているからだろう。だが、葉梨はどうだと見ると、やっぱり耳を赤くしてした。そうだろう、女教師モノでストッキングを破いているのが加藤だもんな。自分が破りたいよね。俺も破りたいもん。
「奈緒ちゃん! そういうのは良くないよ!」
「なんでよ?」
「奈緒ちゃんは女の子なんだから!」
「もう三十路だよ? 別に良くない?」
「違う! そうじゃない! もう!」
頬を膨らませてまた加藤に怒っている相澤と、その隣で耳を赤くしている葉梨を見上げ、肩を揺らせて笑いを堪えている加藤。
――たのしい動物園だこと。
手のひらで温めた高い絆創膏を葉梨に手渡しながら、俺も笑いを堪えた。