ファーレンハイト/Fahrenheit

#03 君のために七回目

 十二月六日 午後二時二十八分

 捜査員用のマンションがある隣県の観光地から署へは、高速道路とバイパスを使えばほぼ最短距離で行けるようになっている。だがそれは地図上の話であって、隣県は南北の移動は容易い道路計画がしてあるが東西の移動はこのバイパスしか無く、渋滞していない時は夜間だけなのではないかと思う。

 署に行く為に公用車を葉梨が運転して俺は助手席に座っているが、渋滞している上に眠気と戦う葉梨はたまに太ももをつねっている。

「シャーペンあるよ? 刺す?」
「はい、次、刺します」

 ここ数日、仮眠もまともに取れない日が続いている。相澤も加藤ももちろんそうだが、眠気覚ましのシャーペン刺しは誰もがやっている事だ。相澤は加藤から頬を叩かれたりして目を覚ましているが、加藤は狂犬の顔で太ももを刺している。俺はその姿を見て目が覚める時もある。

 帰りは俺が運転すると葉梨に言うが、大丈夫だと言う。先輩に運転をさせるわけにはいかないと言うが、現時点で集中力が途切れがちで運転が危険になっている。ならば答えづらい質問を繰り出せば眠気が覚めるかと思い、質問してみる事にした。加藤とも約束した事だ。バラすような奴なら損切りする、と。

「加藤とヤッた? どうだった?」
「ええっ!? してませんよ」
「なんだよ、せっかく朝まで時間作ってやったのによ、もったいねえな」
「そんな……無理ですよ」

 翌朝の加藤を見ても関係は持っていないとは思っていたし、特に葉梨は嘘をついているようには見えなかった。だが、次の質問で微かに目の動きがあった。

「なあ、加藤とデートはどうだったの? どこ行ったの?」
「加藤さんの行きつけのバーに行きました」

 どこのバーかと聞くと、あのバーの場所と店名を答えた。

「一発目からバーだったの? メシは?」
「そのバーで軽く食べましたよ」

 あのバーは料理も美味いから、夜のデート一発目でもまあ問題はないだろう。

「楽しかったです。加藤さんが俺とデートしてくれるってだけで嬉しかったんで」

 葉梨は嘘はついていないが、なんだろうか、この妙な目の動きは。「次のデートの日は約束したの?」と聞くと、していないと答えた。

「なんでよ? まあ今はちょっと仕事がアレだから難しいだろうけどさ」
「まあ、今は加藤さんと一緒に仕事してますし、その時に約束はしなくても良いかと思って……」

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