"愛してる"は蝶よりも花よりもずっと脆い。

妻(仮)

「それではここで、如月社長よりご挨拶いただきます」

「それじゃあ(ちか)、俺が呼んだら前においでよ」

「え、一緒に行くんじゃないの?」

「違うよ。ちゃんと呼ぶからね、聞き逃しちゃダメだよ」

それだけ言って、社長はさっさと壇上の上へ。

後から私だけ登場なんて絶対無理なんですけど。

「皆様、本日は如月コーポレーションのパーティに参加いただき、誠にありがとうございます」

社長のスピーチが始まり、辺りは沈黙に包まれる。

改めて見ると、社長って顔も整ってるし仕事もできるし、完璧人間なんだなぁと思う。

「本日、皆様にご報告したいことがございます。私事ではございますが、この度かねてよりお付き合いしておりました女性と、結婚したことを報告いたします」

「えぇ、結婚!?」

「如月社長って彼女いたの!?」

「今まで浮いた話、聞いたことないわよ」

女性たちがザワザワと騒ぎ始め、それはいつしか大きくなっていく。

こんな中ステージに上がるなんて、絶対無理なんですけど。

中には知ってる人もいるし、同じ部署の人だっている。

そんな人たちに知られたら、明日から平穏な日々は約束されないだろう。

「それでは紹介します。(ちか)、前へ」

「え、染谷さん? あの2人付き合ってたの?」

「てか、染谷さんめっちゃ綺麗じゃない? 全然普段と違うじゃん」

沢山の人からこれでもかというほどの視線を受け、ロボットのように壇上へ向かう。

あぁもう、勘弁してよ社長。

「紹介します、僕の妻の(ちか)です。彼女とは幼馴染みで、つい先日籍を入れたばかりです。社内では本人の希望もあって、染谷のままですが本日を持ちまして如月の姓になります」

「染谷改めまして、如月(ちか)です。この度は、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます」

みんなの前に立ってしまったからには、もう逃げ出せない。

私は頭の中が真っ白になりながらも、何とか挨拶をする。

何を話していいかさっぱり分からず、ただ口だけが動いてる感じ。

「不束者ですが、これからもより一層頑張って参りますので、よろしくお願いいたします」

そう締めてから頭を下げ、ステージを降りる。

あぁ、人生の中のどんな瞬間よりも緊張した。

下手をすると、就活の時の面接より緊張したかもしれない。

「上出来だったよ、ありがとう。今日からよろしくね、奥さん」

「奥さんになるのは認めませんと言いたいところだけど、そんな訳にもいかなそうだしとりあえず今後のことを話し合いましょう」

「ありがとうね、(ちか)

ほんと、この男のペースにずっと巻き込まれてる気がするのは私だけ?
< 11 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop