Fortunate Link―ツキの守り手―
「……ふむ。
明月さんがお相手ですか」
日暮夕月とかいう少女はこちらを見、相変わらず楽しそうな口調で言った。
「鉄腕と名高いその拳と手を合わせてみるのも面白そうですし、
私としてはありがたいのですが…」
そう言って、ちらりと俺の方を一瞥する。
「それでいいんですか?
ツキの守り手さん。
いくらアカツキさんが強いからと言っても――」
そう言って彼女は後ろに手を伸ばす。
そこからすらりと現れたのは30cm弱の鋭利な刃物。
わずかに内に反った刀身、繊細な拵えのそれは、日本古来の武器、短刀だった。
「――私は本気ですよ」
そう宣言した少女の目は、こちらに向けた刃先と同じく鋭かった。
さすがのアカツキも思わぬ状況に一歩たじろいだ。
俺も動けないまま、相手を見据える。
(……こいつ)
耳に甦るのは、昨日の母さんの言葉…。
『――今までずっと明月ちゃんの存在を周りから隠してきたけど、ついこのほど、知られてはいけない相手に明月ちゃんのことを知られてしまったの』
(……知られてはいけない相手って、まさか)
俺は短刀を構える少女を睨んだ。
あれは、つまりはこれを予期しての言葉だったと言うのか…。
「ふふ。
怖くて動けませんか?
普段でさえ、明月さんの腕っ節頼りなあなたが、こんな時に限って動けるわけありませんよねー?」
「………」
見ず知らずの少女の挑発は、昨日の母さんの言葉と重なった。
『――いくらアカツキちゃんが強いからって、それに頼っちゃ駄目よ』
「……くそ…」
歯噛みする。
(……どいつもこいつも…)
怒りを抑えつけるように、ぎゅっと拳を握りしめる。
「――どけ、アカツキ」
自分でも驚くぐらい低い声が出た。
「……シュン?」
「こいつは俺がやる」
壁に立て掛けてあった竹刀袋を手に取り、立ち上がった。