Fortunate Link―ツキの守り手―
第8話:風雲急告げる編入生


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――クローゼットの中。

暗闇の中、息をひそめ、身を縮めてそこにいた。

瘧のような体の震えが止まらない。


一枚隔てた板の向こうで、人が押し入ってくる音がした。

テーブルか椅子の倒れる音。
何か陶器が床に落ちて、割れて散らばる音。
怒号や悲鳴のような人の声。

そして――お母さんの声…。


やがて、嘘のように騒々しさはなくなり、静かになった。

人が立ち去っていく音。

玄関の扉が閉まる音。



私は恐る恐るクローゼットの扉を開けた。

途端に鼻腔に入ってきた臭いに背筋が凍りついた。

濃く漂う鉄錆のような臭い。

よろよろと覚束ない足取りで、部屋へ踏み込む。


色々なものが散乱した室内。

壁掛け時計の秒針の刻む音がやけに大きく耳に響いた。

ひっくり返ったテーブルの向こうに、床に横たわる体があった。


「……母さん……?」


声をかけても返事はない。

仰向けに倒れたまま、その目は固く閉じられたまま開かれることはなかった。


「……あっ」


思わず後ずさる。

母さんの体の胸のあたりにはナイフのようなものが突き立てられており、そこを中心に服も赤黒く染まっている。

そして体の下からも血が広がり、みるみるうちに床に広がり、自分の足元にまで近づきつつあった。

一歩、二歩と後ろへさがる。


逃げたかった。

怖かった。怖くて仕方がなかった。


恐怖感に耐え切れず、その部屋から飛び出して、外へと出た。



――誰か…。

誰か助けてください。



声にならない声で叫ぶ。

でも周囲にあるのは暗闇ばかりで、その声に答えてくれる人は誰もいない。



茫然としながら、ふと空を見上げた。

夜空には赤い月が浮かんでいた。




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