Fortunate Link―ツキの守り手―
「ごめんなさい。そうですね。勝手が過ぎましたね」
意外にも相手はすんなりと食い下がり、謝ってきた。
「…………へ」
その変わり身の早さに狐につままれたみたいにぽかんとする。
「……いや」
逆にこちらが戸惑ってしまった。
そうしてる間に、夕月さんはテレビのリモコンを取り、電源を切る。
エンディングに向かっていたドラマの音声がぶちりと途切れ、すっかり忘れていた筈の静寂が室内に戻った。
改まったように向き合い、
「違ったお話をしましょう」
横目でちらりと眠っているアカツキの方を確かめるように見る。
「せっかく二人きりでお話が出来るんですし、ね」
ちょうど都合がいいと言わんばかりの口振りに、先ほどの疑念が再びぶり返す。
(やっぱり薬を盛ったか…)
アカツキが人目をはばからず爆睡するなんてことはあんまりない。
「急に…どういうつもりだよ?」
「私に聞きたいこととか言いたいこととかあるんじゃないですか?」
真っ直ぐ俺の方を見ながら問いかけてくる。
俺は少し視線をそらした。
「……別に」
「そうですか。それならおいとましましょうかね。私も暇じゃないんで」
言って、夕月さんはおもむろに立ち上がった。
玄関へと向かうその背中を、俺は追いかける。
「あの…」
靴を履く彼女の背中に声をかけた。
「またちゃんと家に帰ってくるんだよな?」
問いかけると、彼女は立ち上がり、こちらを見た。
俺は少し震えながら、その名を呼んだ。
「……母さん…」