Fortunate Link―ツキの守り手―

俺は押し黙る。

あの記憶が生々しく頭に甦り、ドッと汗が噴き出るのを感じた。


「多分、後催眠暗示で操られてただけ。

それにあのコはその暗示に逆らおうとしてた。並みの精神力じゃ出来んな。

…よほどにお前のことが好きやったからやろなぁ」


瀬川はしみじみとしながら言い、俺のほうを見て笑う。

「隅に置けんなぁ。お前も」

冷やかすように。


「……そ、そんなんじゃねーよ」


慌てて目を反らして答えるが、思ってることはすでに顔に出てしまっていた。

すなわち赤面していた。


「…ははぁ。その様子やとすでに告白されたっちゅうくちか」


奴はずばり鋭く当ててきた。

思わず詰まるこちらを見て、頬を緩めて可笑しそうに笑いやがるんだ。 


「ま、俺が言うのも何やけど…。

ああ見えて内面は真っ直ぐなコやから、ちゃんと熟考してから返事を返したってやってくれや」


まるで自分の妹を気遣う兄のような優しい口調で言う。


一体どういうつもりなのか。

ますますこいつのことが分からなくなる。


答えてやるのも癪だったが、それでも答えてやってしまっていた。


「……分かってるよ」


俺は視線を合わせないまま、


「白石さんがどんなに真っ直ぐでイイ子かっていうのはよく分かってる。
……まぁ。ちょっと困ったところもあるけど」

色んなふうにコロコロと変わるあの表情を思い浮かべながら言う。


だから恨むなんてことはありえない。

どんなことをしてきたとしても、本気で彼女のことを嫌うことは無いだろう。
 

だけどそれ以上言うのは気恥ずかしくって、すぐに打ち切った。


「――んなこと言ってる場合じゃねぇや。俺は先に行く」


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