18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~

 彼は、笑顔だった。

 私も、笑顔になった。

 だけど、胸の奥がぎゅっと痛くなって、妙に切なくて、少し苦しくなった。

 これはきっと、熱があるせいだなんて、そんなふうに思えるほど私はバカでもない。


「ありがとう、伊吹くん……ごめんね」


 私は彼の気持ちに応えることはできない。

 彼もそれを知っている。

 だから、せめて、精一杯の笑顔で答えた。


「伊吹くんに、そんなふうに想ってもらえて、本当に嬉しいよ」

「秋月……」

「わたし、前は伊吹くんに嫌われていると思っていたの」

「あ、ああー……それ」

 彼は恥ずかしそうに俯き、そして続けた。


「秋月が近くにいると、すげー恥ずかしくて……本当は話したかったのに、どうやって声をかけたらいいか、わからなくて……いつも、小春を通して秋月のことを聞いていたんだ」


 伊吹くんが、素直に自分の気持ちを話してくれる。

 そんなことも知らないで、私は彼のことが苦手だから、部活でも会いたくないだなんて、思っていたんだ。


「ほんとに、ごめんな?」

「ううん。でも、よかった。このまま伊吹くんのことを苦手なまま卒業していたら、きっと一生そういう思い出になっちゃうから」

 中学生の頃に仲良しだった子と気まずくなって、その子は別の高校へ行った。

 苦い思い出は、ずっと引きずってしまうものだから。


「伊吹くんの気持ちを知ることができて、よかったよ」

「秋月」

「ありがとう」

「俺も」

 伊吹くんは眩しいくらいの笑顔を私に向けてくれた。


「ありがとう」



< 363 / 463 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop