薬術の魔女の結婚事情

学芸祭1日目。


「今回はー、猫(燕尾服ver.)だよー」

 にゃん、とポーズを決め、薬術の魔女はアピールをする。その拍子に髪と同色の尻尾がふわりと揺れた。

「うわでた」
「また猫なのね」

それを見るなり、友人Bと友人Aは口々に感想を述べる。
 その2は学生会の仕事が忙しいという理由で、今年は学芸祭にあまり参加できないらしい。
 その(むね)を事前に薬術の魔女と友人達に伝えていたので、その2は今、この場所には居ない。話によると、『少しは参加できそうだから、虚霊祭の後半頃には合流できそう』とのことだった。

「うん。だって猫可愛いし」

 友人Aに撫でられながら、薬術の魔女は答える。
 頭を撫でられ、それに嬉しそうに目を細める様子はなんとなく猫のような雰囲気がする、と友人Aと友人Bは内心で思っただろう。

「ところでなんで燕尾服?」

友人Bが不思議そうに魔女に問いかけた。ちなみに友人Aと友人Bは、今年は聖職者と魔術師のような格好のツノの生えたモンスターだった。今年もなんとなくお揃いのようだ。

「んー、去年が給仕服だったから」

 友人Bの質問に、薬術の魔女は口を尖らせながら答えた。他にも何か理由がありそうだったが、答える予定はないようだ。

「そうなんだ?」
「で、婚約者の人はどうだったの?」

やっぱりよくわからないな、と友人Bが首をすくめ、友人Aは薬術の魔女に去年と同様に彼女の婚約者が学芸祭に来訪するのかを問いかける。

「なんだか、今年は忙しいからあんまり来れないんだって言ってた」

 学芸祭が始まる少し前に、薬術の魔女は学芸祭に来るのかと魔術師の男へ連絡を入れたがあまり良い返事は返ってこなかった。

「多分、今日と明日は来ないんじゃないかな。『最終日くらいはどうにか来れるようにする』って言ってたし」

「へぇ?」
「去年はよくまあ三日間も来てくれたのね」

「……たしかに、そうなんだよね?」

 なんで来てくれたのかな、と薬術の魔女は不思議そうに首を傾げた。

×

 今年は、去年のような火急的用事などは無かったので、薬術の魔女は自身の制作した薬品や洗剤などを展示し、それらを販売する。

「去年は……何があったっけ?」

 と、思い出してみる。何故だか今年は去年のことを思い出してばかりだな、と少し思いながら。

 去年は何か、魔術師の男が誰かと決闘をしていたような……と、薬術の魔女は首を傾げる。

「(……なんで、決闘をしたんだっけ)」

内容は忘れたが、彼が実にあっさりと誰かに勝ったことだけは覚えている。

「(まあ、なんでもいっか)」

 なんだか思い出さなくてもいい気がしてきた。

「はーい。ご購入、ありがとうございまーす!」

 と、購入してもらった薬品を袋に詰めて、薬術の魔女は購入者へと手渡す。
 去年よりも、わずかながらに増えたらしいリピーターに、少し嬉しく思いつつ、薬術の魔女は店に現れた人になるべく時間をかけて対応した。
 それは、自身の制作した薬を買ってもらいたい、という考えも入っているが、一番の理由は、自身が作ったもの達に使われる薬草の成分や効能などを知って欲しかった、というものだった。

「(去年は、……宣伝も手伝ってくれたんだっけ……)」

 去年はせっかく来てくれた彼の背中に勝手に宣伝のポスターを貼った。
 それは悪かったとは思ったものの、彼はわざわざそれを外さずにそのままで一緒に学芸祭を回ってくれ、その次の日や最終日には広告で集まった客の対応を手伝ってくれた。
 なので、今日訪れた客の中には

「去年の大きな猫さんいないの?」

と薬術の魔女へ問いかける者も居た。その者に対しては「今年は忙しいみたいで……」と申し訳なく告げたが、たった2、3日手伝っただけなのに(彼の存在の)リピーターを獲得するとはさすがだなと、薬術の魔女は魔術師の男の対応力の高さに感心した。子供や若い女の人が多かったが、そもそも薬術の魔女の狙う客層が子供や若い女性なので問題はない。

 例年のように、校舎内を警備しながら学芸祭を回る友人B(と、友人A)、その3が購入してくれたらしい菓子や食品、飲料の差し入れを時折受け取り、薬術の魔女は無事に一日目の分を完売する事ができたのだった。

×

 無事に一日目が終わり、薬術の魔女は明日補充するための薬品や洗剤などの準備を進めながら、自室でぽつりと呟いた。

「……あの人が居たら、もうちょっと楽しかったのかな」

なんとなく、去年よりもつまらなかったような、そんな気がしたのだ。
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