お巡りさんな彼と、その弟は、彼女を(密かに)溺愛する
「あの子は……いつまで父さんの事を覚えてるかな」

「え」

「まだ小さいでしょ。だから、いずれ忘れちゃうのかなって――ごめん、変な事を言ったね」



その時、兄貴は笑っていた。悲しそうに、眉を下げて。

昔は俺より泣き虫だった兄貴だけど、なぜかこの日は涙を見せなかった。泣いても仕方のないこと、と。早々に諦めていたのかもしれない。



「父さんの人生の上に、あの子の人生が続いた。あの子には……これからを大切に生きてほしいな」

「……っ」



他人事みたいに言う兄貴に、腹が立った。俺らの父親が、あの子供に殺されたようなもんなんだぞって――そう言いたかった。

だけど、ちょうどその時。

玄関が静かになった。見ると来訪者は帰っていて、ちょうど母さんが力なく床に座り込んだ所だった。



「うぅ……っ」



静かに嗚咽を漏らす母さん。一人ぽつねんと座る姿を見て居られなくて、俺たちは移動した。
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