お巡りさんな彼と、その弟は、彼女を(密かに)溺愛する
「俺は、冬音さんから逃げていたんです。冬音さんの弟が怖くて……。思い出したくない記憶の蓋を、無理やりこじ開けられるようで。
過去から逃げるには、冬音さんと距離をとるしかない――そう思って、今日も冬音さんと別々に帰りました。冬音さんは俺に話があったのに、それを聞きもしないで……」
「……そうか」
「俺が冬音さんと一緒に帰っていれば、冬音さんはこんな事にはならなかった。本当に、すみませんでした」
病院へ出発までの間、救急車の外で話す。
周りが警察の声で騒々しいはずなのに、俺たちの周りはシンと静まり返っていた。自分の息遣いさえも聞こえない。全て「無」に染まった、そんな寂しい世界。
だけど――そんな世界を、おじさんが終わりにした。