一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「そんなことないって。眞央だって喜ぶさ。新しい命が誕生するのを間近で見守れるなんて。それに家は、二人で住むには広いからな。古いが一戸建てにしたんだ。だから、な?」

 髪をくしゃくしゃと撫で諭すように言う樹の優しい表情に、ポロポロと涙が落ちる。

「うん……。うん、ありがとう……。たっちゃん」

 由依は胸をいっぱいにしながら、頷き返した。
 樹は頭から手を離し体勢を戻すと、「ただ……」と心配そうな声を漏らす。

「由依の職場がちょっと遠くなるんだよな」

 そう言う樹に、由依は昨日の出来事を話した。
 もちろん樹は眉を吊り上げ、自分の代わりに怒り出した。

「はぁ? 不当解雇だろ。そのじいさんの頭の中どうなってんだ。万智子先生に相談するか?」

 両親の事故のとき担当してくれた弁護士、万智子先生のことを樹も知っている。元々樹が、眞央の遠い親戚に弁護士がいると紹介してくれたからだ。

「ううん。もういいかな。そこまでして戻っても居づらくなりそうだし。それに、たっちゃんと心置きなく暮らすにはちょうど良いのかも」

 そういう巡り合わせだったのだ。樹のおかげでそう前向きに捉えることができる。

「そうか。じゃあ由依。これからよろしくな」

 握手を求めるように笑顔で手を差し出され、由依はその手を笑顔で握り返した。
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