一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
(どうしたらいいんだろう……)

 いつもより少し遅めに帰った家には誰もいなかった。灯希と二人で仏壇の前に座り手を合わせたあと、ぼんやりと考えた。

 すぐに"会います"とは言えなかった。まだ戸惑いはあったから。彼女もそれはわかってくれていた。そしてこう言ったのだ。

『私も、大智が何をどう思っているかはわからないんだけど、お互い蟠りみたいなものはあると思うんだ。せめてそれを打ち明けたらどうかな? そのあとで灯希君のことを話すかどうか決めていいと思うよ』

 話せばきっと、彼は父としての責任を取ろうとするだろう。灯希にしても、戸籍の父親欄が空白よりも、名前があったほうがいいに決まっている。
 けれどそれが、彼を縛ってしまうのではないかと怖くなった。

(それでも……。会って、ちゃんと話しをしないと……)

 部屋にある絵本を引っ張り出し、めくって遊んでいる灯希を見ながら決心する。その絵本に描かれた、ヤギのように強くならなくては、そう思いながら。
 スマホを取り出すと、メッセージアプリの"大迫美礼"の名前を選択する。帰り際にお互い連絡先を交換し合ったのだ。気持ちが固まったら連絡してと言われて。
 深呼吸してからそこにメッセージを打ち始める。それを送信し終えると立ち上がった。

「さ、灯希。ご飯にしようか」

 灯希はご飯に反応したか顔を上げ、「まんま!」と言うと満面の笑みを見せた。
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